彼女からの連絡が来なくなった。
こちらからメッセージを送っても既読もつかない。もちろん、電話しても出ることはなかった。
「どうしたの?具合悪い?」
「何かあったのかな?いずれにしても連絡してください。」
等、こちらからの問いかけにも一切反応がなかった。
俺は一抹の不安を覚えた。何か彼女を怒らせるようなことをしてしまったのではないか、といろいろ思い浮かべていた。
あまり、どうした、とばかりメッセージを送っても、と思って仕事であった事や、以前行った店の事等、普通の会話のような事も言ってみた。だが、結果は同じだった。
しばらく経ったある日、朝起きるとメッセージが届いていた。
時間は明け方の4時。飛び起きてメッセージを開いた。そこにあったメッセージは
「お父さん、急にいなくなってごめんなさい。ずっと、ずっと大好きです。ありがとうございました。」とあった。
すぐ電話をかけてみた。メッセージも送った。だが、彼女は何も反応しなかった。
これは別れのメッセージなんだろう…でも、理由くらい教えてくれても…
そう思いながら、やり場のない気持ちをずっと堪えていた。
また月日は流れ、今日は娘の成人式だ。
晴れ姿を見るために、俺は単身赴任先から家に帰っていた。
成人式に送りに行った際、もしかしたら彼女が来ているかも、という期待もあったからだ。
早朝暗い内から娘の着付けに送迎し、会場へ妻と送り届けた。
着いてくるのを嫌がる娘を横に、俺も会場の入り口へと向かった。
成人式を迎える何百もの若者の中から、彼女の姿を探した。
だが、見つけることはできず、諦めて家に戻った。
翌日の昼近く、成人式の後、友達と朝方近くまで遊びに行った娘が降りてきた。
成人式、どうだった?と話を振った。
久々に会えた同級生もいた、との事で娘は多弁だった。
俺は話の流れからそれとなく
「杏奈ちゃんも来ていた?」と聞くと、
「杏奈?来てなかったよそういえば。」と素っ気なく返事した。
俺はそれ以上何も聞けなかった。
その日からしばらくして家に帰った時、娘から思わぬ事実を聞かされた。
「杏奈ねぇ、学校辞めたみたいだよ。付き合ってた彼氏とデキちゃって、そのまま結婚したみたい。」
ショックだった。俺は動揺を押さえながら、そうなんだ、と返事し話を聞いていた。
「杏奈の家の近所のコから聞いたんだけどね、結婚したのとは関係ないみたいだけど、家ごと引っ越しもしちゃったみたい。誰も連絡取れなくなったみたいだよ。」
その夜、タバコを買いに行くと言い、家を出て彼女の家まで来ていた。
そこは娘が言った通りもぬけの殻で、「売り物件」の看板が掲げてあった。
これで良かったんだ。彼女は、先の見えない俺との関係より、真っ当な人生を選んだんだ…俺はいつも思ってたじゃないか…ずっとこのままでいいのか、彼女はちゃんとした恋愛をして幸せに生きる様にしてあげないといけないんじゃないか、って…
それから5年の月日が流れた。
時の流れは、時に残酷な現実を見せてくれる。
成人式から2年後、妻は、赤信号で突っ込んできた車に横から激突され、この世を去ってしまった。相手は飲酒運転だった。
妻の亡骸を目に、俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
妻は俺の裏切りを知ることもなく、亡くなってしまったことに俺は申し訳なさと自分の狡さになり切れない思いをしていた。
娘は学校を卒業してから、東京の方で就職していたので、俺はこの家に1人残されることになった。
妻が亡くなって3年が経った。娘は時々俺の事を気にかけて連絡してくるが、仕事も順調で向こうにいい人もいるようだった。今後、こちらに帰ってくることはなさそうだ。
妻が亡くなってから俺は単身赴任から戻っていた。毎朝起きて、妻の遺影に手を合わせ仕事に行く。仕事から帰ると、1人買ってきた総菜を酒を飲みながら食べるという生活を続けていた。
彼女とはあれっきりだった。俺はもう過去のものにしようと言い聞かせたが、何かの拍子に思い出しては彼女の面影を思い返していた。
ある日、職場の同僚の出産祝いを買うため、仕事の途中だが別の同僚と大型のショッピングセンターに来ていた。
その同僚がまとめ役のため、俺自身は関係ないのだが、1人では決めかねる、との事で外回りのついでに付き合わされた。
「別にこんなとこまで来なくても、職場の近くでも良かったんじゃないか?」
「いやでも、大きい店の方がいろいろあって選びやすいじゃないですか。」
まぁ、それも一理あるな、と思いながら、同僚がプレゼントを選ぶ為に子供の衣類やオモチャのある売り場に来ていた。
子供向けのいろんなオモチャがある中で、見慣れたキャラクターがあった。
「これ、愛茉が好きだったやつだ。今でも人気なんだなぁ」そう思いながら売り場を歩き回っていた。
すると、5、6歳くらいの女の子が走ってきて、俺にぶつかってきた。
転びそうになったその子を咄嗟に支えると、知らない男に抱きかかえられてびっくりしたのだろう、その場に固まって立ちすくんでいた。
「大丈夫?ごめんね、おじさんよく見ていなくて…痛いとこない?」そう言うと女の子は緊張した顔をして、コクンと頷いた。
その子の顔を見て、ん?と思うとこがあった。「誰かに似てる…」
すると向こうから親らしき女性が慌てて近づいてきた。
「すみません…」と近づいてきたその女性を見て、俺の身体に衝撃が走り、あっ、と思わず声に出した。
女性も俺の顔を見て、えっ!?…と声に出していた。
それは間違いなく彼女だった。
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