たっくんは私の部屋でおやつを食べ、ファミコンをして過ごし16:00に家まで送り、家の前で遊びながら彼の母親の帰宅を待った。
彼の母親は17:30頃に自転車で帰宅し、見知らぬ女である私と息子が遊んでいる事に一瞬驚きを見せたが事情を説明すると納得し、私に礼を言うとお辞儀をしながら家の中に入っていき、私もまた自分のアパートに帰る。
部屋の中はいつもよりもガランとしていた。たっくんが食べていたお菓子の袋やチラシの裏に描きかけていた絵が静寂の中に佇んでいる。
私は彼の残滓をぼんやりと眺めながら、胸の奥で深く眠っていた孤独と寂しさが目を覚ますのを感じた。
両親を早くに亡くした私はかつて温かい家庭を夢見て結婚していた時期がある。好きな男と結ばれて子供を産み育て、当たり前と言われていた幸せに強い憧れを持っていたが、憧れは最も残酷な形で脆くも崩れ去った。
あれは6年前である。私は当時の亭主の子を妊娠した。この頃の亭主は優しく私に尽くしてくれたが、妊娠4ヶ月目に流産してしまい、医師は「奥さんの子宮では今後の妊娠は厳しいかも知れないですね
」と私達夫婦に告げた。
亭主は余程ショックだったのか、はたまた私と顔を合わせるのが気まずくなったのか、人が変わった様に私に冷たくなり、外に女を作り私に暴力を振るう様になった。
時に顔が腫れ上がる程殴られ、時に愛人の前で裸にされて罵られながら凌辱される。私は耐えきれずに家を飛び出し、流れ流れて今のこの場所に流れ着いた。
「あの子が産まれていたら…」
私はボロボロと流れる涙を止める事ができない。
私はたっくんの残滓を片付ける事も出来ず、涙が乾いた後もそのままにして、ただぼんやりと眺め続けた。
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