2年生に進級してからも、僕と綾香さんの間には、あの公園での穏やかな時間が流れ続けていた。学校帰りに立ち寄る公園のベンチで、他愛ない会話を交わす。さすがに毎日ではなかったが、それが僕の日常の、何よりも大切な一部になっていた。
そんなある日、クラス替えで同じクラスになった美咲が、僕に話しかけてきた。小学校の頃からの友人だったし、なんなら小学校高学年の頃、席が隣だったこともある。
「ねえ、翔太くん」
美咲の屈託のない笑顔が、僕の少し陰鬱な気持ちを明るく照らしてくれるようだった。
「あの公園で、いつも綺麗なお姉さんと一緒にいるよね?」
ドキッとした。まさか、誰かに見られていたなんて。
「え、ああ…まあ、時々、知り合いの人と…」
僕は曖昧に答えるのが精一杯だった。綾香さんのことを、クラスの友達にどう説明すればいいのか分からなかった。ただの知り合い、というのも違う気がするし、ましてや「刑事さん」なんて言ったら、きっとみんな驚くだろう。
「そのお姉さん、すごく美人だよね! スタイルもいいし。翔太くんと並んでるところ、なんか絵になるなあと思って」
美咲はそう言って、にこりと笑った。悪気のない、純粋な好奇心からの言葉だと分かったけれど、僕は内心穏やかではなかった。綾香さんのことを、そんな風に他人から言われるのは、なんだか複雑な気持ちだった。
「そ、そうかな…」
僕はぎこちなく笑い返すのがやっとだった。美咲は特に気にすることもなく、すぐに別の話題に移っていったけれど、彼女の言葉は僕の心に小さな波紋を残した。
(他の人から見ても、綾香さんは特別な存在なんだな…)
改めてそう認識した時、胸の奥に今までとは少し違う感情が湧き上がってきた。それは、単なる憧れや尊敬の気持ちだけではないような、もっと複雑で、少しだけ苦いような感情だった。
それからというもの、僕は以前よりも少しだけ、綾香さんのことを意識するようになった。公園で会う時、彼女の横顔をそっと見つめたり、話す声に耳を澄ませたり。彼女の何気ない言葉や仕草の一つ一つが、以前よりも特別な意味を持っているように感じられた。
2年になっても、僕と綾香さんの、あの公園での特別な関係は、ゆっくりと、けれど確実に、その形を変えつつあったのかもしれない。
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