助手席に座るひまりの母親は何かと落ち着きがなく少し緊張しているように見える。
「加藤さん…大丈夫ですか?リラックスしてて大丈夫ですよ。直ぐに着きますから。」
と声をかけると、「あ、ありがとうございます。」と言った後、
「仕事で男の人と車に乗ることはよくあるのですが、私事で旦那以外の男性と車内で2人になるのは初めてで、ちょっと緊張してしまって…すいません。」
と顔を赤く染める。これは本当に旦那以外の男を知らないかもしれない。
「いえいえ…あやまらなくても大丈夫ですよ。スーツ姿の加藤さんをパット見て最初は何事も動じない強い女性という印象でしたが、イメージと違って案外可愛いですね。あっ…案外は余計でした。」
「もう…岡田さんたら!この歳になって可愛いだなんて言われると思ってなかったから恥ずかしいです。」
「いやいや…まだ36歳でしたよね。充分可愛いです。可愛いって言われるの嫌でしたらすいません。」
「……そんな事ないです。いつも仕事で気を張ってていつの間にか強い自分でいなきゃって思ってしまっていたみたい。岡田さんに可愛いと言われて、なんかスーッと肩の力が抜けました。」
といってニコッと微笑む。その笑顔が娘のひまりにそっくりでドキッとしてしまう。
旦那は海外に単身赴任。
仕事と子育てで毎日気が張ってるんだろうな。
「加藤さんの笑顔素敵ですね。なんか癒やされます。」
「まあ…お世辞がお上手なこと。奥さんがいるのにそんな事言っていいのかしら。」
奥さんか…。咲の父親だと思ってるんだからいるのは当たり前だと思ってるんだよな。
どうする…どう言い訳しよう。
「いや…いないですよ。訳あって籍は入れてないんです。だから娘の咲とは苗字が違いますし…。でも今、咲を引き取ろうと考えていて手続きを進めている最中です。」
母親はハッとし、「そうだったんですね、ごめんなさい。余計な事言って。」と頭を下げ続けて、
「じゃあ岡田さんは今は独身なんですね。」
と確認するように聞いてくる。
「もちろん…独身です。私は加藤さんの旦那さんが羨ましいですよ。こんな綺麗で可愛い人が奥さんだなんて。海外出張で会えなくさぞ寂しいでしょう。」
「いや…寂しいなんて思ってないですよ。向こうに愛人がいるの知ってますから。この前旦那の赴任先に義理で行きましたが、もう行きません。娘には言ってませんが、別れようかと思ってるところです。」
「そうでしたか…私もいらん事を言ってしまったようですいません。」
と言うとお互い顔を見合わせ、「お互い色々ありますね」と言って吹き出すように笑い合う。
お互い少しリラックスした雰囲気の中、スポーツショップに到着する。
「色々あるんですね。どれがいいのか…」
「店員を呼んで来ますね。」
店員を探す振りして奥にいる渡辺に、
「今、ひまりの母親を連れてきたからお前が店を案内してやってくれ。」
と声をかける。
「わかった。ひまりちゃんの母親に会えると聞いて急いで来たよ。」
「くれぐれも粗相のないように。」
「もちろん…わかってる。」
店員の格好をした渡辺を母親の前に連れて行く。
「いらっしゃいませ。奥さま、どんなウエアをお探しでしょうか?」
「奥さま…」と小さな声でつぶやくと、
「初めてジムに通うものですから、どんなウエアがいいか分からなくて。」
「だったらこちらなんかどうでしょう?生地も伸びて動きやすくて今人気です。」
渡辺が見せたのは、上下ブラックでレギンス一体型のショートパンツに体の線がはっきり見える半袖のウエア。
母親は僕の顔を見て、「岡田さん…これどう思います?」と聞いてくる。
「私はいいと思いますけど、一度着てみます?」と言って試着室に連れていく。
母親が試着室に入ってカーテンを閉めると
すかさず渡辺が小声で話しかけてくる。
「純也…母親綺麗だな。ひまりちゃんにそっくりで直ぐにわかったよ。」
「そりゃ…親子だからな。ひまりが母親に似てるんだよ。」
「そんな事わかってる。確か36歳だったよな。」
「ああ…そうだよ。加藤麻里36歳。」
「お前…もうやったのか?」
「まだだよ。これからの成り行き次第だが、そうなったらナベちゃんにもちゃんとお裾分けするから。その為に少しでも母親と面識があった方がいいと思ってナベちゃんを呼んだんだよ。」
「おおう…ありがとう。ひまりちゃんとその母親、親子丼…いいね〜。」
「ナベちゃん、相変わらず下品だけど嫌いじゃないんだよね。」
暫くすると試着室の中から、「岡田さん…着替えてみたけど、これ体の線がはっきり浮き出てなんだか…恥ずかしいような…。」と声が聞こえてくる。
僕は渡辺に「うぶなんだよ。」と耳打ちし、
「加藤さん…カーテン開けてもいいですか?」と声をかけると「あっ…はい」と返事が返ってくる。
カーテンを開けると母親が恥ずかしそうに立っている。
少し細身の体に形の良い胸とお尻がはっきりと浮き出ている。ウエストも引き締まり36歳には見えないスタイルの良さに下半身が熱くなってくる。
プールの時の水着も良かっが、トレーニングウエアもそそる。
「僕はいいと思うけど店員さん…どう?」と渡辺に声をかけると、
「奥さま…スタイルいいですし、似合ってますよ。みんな着てますから恥ずかしい事ないです。ウエアは体にフィットしたほうが動きやすくて怪我もしにくいですしね。」
とアドバイスする。
「岡田さんと店員さんがいいっていうならこれに決めようかしら。」
「でしたらこれとセットのアウターもご用意しますね。」
「あっ…はい。お願いします。私着替えますね。」
と言って母親はカーテンを閉める。
「スタイル抜群、いい体してる。」と渡辺が僕に耳打ちしてくる。
「俺もそう思うよ。」
母親はスーツに着替え試着室から出てくると、ウエアを渡辺に渡す。
「ここの店員さん実は僕の知り合いで、渡辺って言うんです。接客が丁寧でいつもお客さんに一番合った物を選んでくれるから評判がいいんです。だから加藤さんを連れて来ました。」
「そうだったんですね。ありがとうございます。」
暫くすると渡辺は、「おまたせしました。」と言ってウエアの入った紙袋を母親に手渡す。
母親は戸惑いながら、「あの…お会計まだなんですけど…。」と言うと、渡辺は「岡田様に頂いてますので大丈夫です。」と返す。
「えっ?それはダメです。私払います。ジムの会費も払って貰ってウエアまで。」
僕は笑いながら、
「私がジムに誘ったようなものですから、奢らせて下さい。もし良かったらこれからお食事でも。その時奢って下さい。」
と言うと母親は、「お食事誘っていただけるんですか?」と嬉しそうな顔をする。
「もちろん奢らせて下さい。」
「じゃあ行きましょう。少し遅い昼食ですけど。」
「はいっ」
渡辺はうまくやれよという目で僕を見て、
「ありがとうごさいました。」と頭を下げる。
※元投稿はこちら >>