俺は驚き、動揺して、すぐにあゆみに電話した。
するとあゆみは、さも何でもない事のように
「あ、通知届いた?ねぇ先生、スーツって持ってたっけ?」
「あ、ああ。それくらいは」
「そう?じゃあ遅刻しないで、ちゃんとした格好で行ってね。そうすれば、入社できることになってるから」
あゆみの口ぶりでは、面接前からすでに入社は決まっているみたいだったが、いくらしっかりしていても15歳の少女の言うことを鵜呑みにはできない。これは人生を立て直すチャンスかも知れないのだ。JCの先生になるという妄想に取り憑かれ、解雇された学園への復讐心でグチャグチャになった、俺の人生の。
俺は真剣にその会社の事を調べ、でっち上げの志望動機を暗記して、面接に望んだ。
ところが、面接官が俺に尋ねたのは、この会社に入社する意志はあるか?入社したら、どんな部署に配属されたいか?いつから出社できるか?この3点だけ。本当に面接前から採用されると決まっていたのだった。
俺は、あゆみの祖父が想像以上に大物であるのに気付き、怖くなった。
しかし何はともあれ、俺はその会社で働き始めた。
今度こそ、頑張れば必ず報われるような気がしたので、がむしゃらにがんばった。
入社後1か月が経った頃。あゆみのお祖父様からお招きがあった。表向きは『就職を世話してもらったお礼』ということだったが、実際は『あゆみの相手』の見極めだ。そしてあゆみにとってはこれが、16才までにやり遂げなければならない重要な『儀式』なのだった。
俺は初めてあゆみの家まで彼女を車で迎えに行き、お祖父様のお屋敷を訪ねた。
応接室で、ふたりして緊張して座っていると、現れたのは拍子抜けするほど、柔和な顔つきの小柄な老人だった。
俺が型通りの挨拶とお礼を述べると老人は、
「だいぶ活躍なさっているようですね。安心しました。」と言って微笑んだ。
あとは、世間話。といっても俺の生い立ちやあゆみとの出会いのことは聞かれない。専ら、このファミリーの歴史、昔の苦労話やお祖父様の若い頃の失敗談など、面白おかしく聞かせてくれた。
そして、話の締めくくりに
「孫のこと、どうぞこれからも宜しくお願いしますよ」と言って軽く頭を下げると、席を立った。
俺の車で二人きりになると、あゆみは「乗り切った~!」と言って息を大きく吐き出した。
これであゆみはとりあえず、お祖父様や親戚から交際相手のことを聞かれることはない。付き合っている男さえいれば、いつそいつと結婚するかなどは、本人たちの自由でいいらしい。
俺も、大事な役割をこなすことができて、安堵していた。
その1週間後、今度はあゆみの父親が、俺の勤め先を訪ねて来た。
俺はお祖父様の時よりも、更に緊張した。
何しろ俺は、この男の家に夜忍び込み、大切な娘をレイプしたのだ。その上今は、その娘をセフレにし、更に彼氏のフリをしてお祖父様に挨拶までした。これらの内のどれかひとつでもバレたら、その場で叩きのめされそうだった。
父親は、職場の応接室に通された。
俺はノックしてその部屋に入るなり、
「はじめまして!お父様に挨拶もしないで、勝手なことばかりして、申し訳ありませんでした!」と立ったまま頭を下げた。
すると父親は立ち上がり、俺を手で制して
「それはいいのです。どうぞお直り下さい。」と言った。
父親に促されて席に着くと、彼は
「私はその事を責めるために来たのではありません。元々娘の交際については、本人と義父に任せてあるので。」
俺が安堵した様子を見せると、続けて
「今日私は、立場的な義務として、あなたに説明をしに来たのです。あゆみの交際相手として義父に認められるとは、どういうことなのか。」と言った。
あゆみの父の説明によると…
お祖父様に挨拶を済ませ、認められると、ファミリーの準メンバーとして迎えられ、必要ならある程度の支援が受けられる。今回の俺の転職のように。
しかし、若い男女のことなので、うまく行かずに別れることもある。その場合も、ただ準メンバーから外れるだけで、特に挨拶や報告は要らない。との事だった。
ここで俺は、気になっていたことを聞いてみた。
「もし、あゆみさんと別れてしまった場合、俺はこの会社にもいられなくなるんですか?」
すると父親は笑いながら手を振り
「ここは一流企業ですから、そんな理由で解雇したり、冷遇したりはできません。まあ、その後も順調に昇進できるかは、あなた次第ですが」
俺は内心喜んだ。何しろ俺とあゆみは恋人同士ではないので、いつ彼女に本当に好きな相手ができるか分からないのだ。
しかしあまり嬉しそうにするの、それが目的で彼女に近づいたみたいになるので、平静を装い、次の質問。
「ファミリーのメンバーになって…何か、求められる役割みたいなものはあるのですか?」
すると父親は、しばらく俺の顔を眺め、言葉を選びながら
「そういうのは、特にありません。一族の会社経営や資産運用は、義父と血縁の男性が担うので。我々娘婿に求められるのは、元気な子供を作って、立派に育てることだけです。」
俺が「よく分かりました。ありがとうございます。」と礼を述べると、父親は安心したように微笑み
「あゆみのこと、どうぞ宜しくお願いします」と言って頭を下げた。
あゆみの父親を見送り、俺はひとますホッとしたが、時間が経つにつれ、次第に腹が立ってきた。
『男が、ファミリーに迎えられて、期待されるのが子供を作ることだけ?それじゃあまるで…』
その日はちょうど、あゆみが部屋に来る日だったので、俺は彼女に父親が来たことを話すと、皮肉たっぷりに
「まるで種馬みたいだな」と言った。
あゆみは最初、俺が何を不満に思ってるのか分からずにキョトンとしていたが、やがて
「いいじゃん!その方が気が楽だよ?お父さんなんか、仕事が趣味みたいになってるし」と言った。
確かにあゆみの父親みたいな男にとっては、ファミリーの仕事に煩わされることもなく、家族の生活の心配もせずに、仕事で好き放題できる環境は理想なのかもしれない。
それでも俺が、納得行かない顔をしていいると、あゆみがふいに『いいこと思いついた!』というような顔で
「そうだ!ねぇ先生?今でもエリス学園に、リベンジしたい?」と聞いた。
「ああ、そうだな。チャンスがあれば」
「じゃあさ、おじいちゃんにシュッシしてもらって、近所にもっとスゴイ学校作っちゃえば?エリスの先生も生徒も引き抜いて。エリスにとっては大打撃だよね?」
俺は正直『とんでもねぇ事を言いだすな!』と思ったが、あゆみが言うと強ち夢物語でもないのが、却って怖い。
しかしそこで俺は、話がおかしな方向になっている事に気づき、驚いた。その拍子についストレートに
「なぁ、いいのか?その流れだと、お前は俺と…」
するとあゆみもハッとして、見る見る真っ赤になり、叫ぶように
「わかんないよ、そんなの!この先生への気持ちが、何なのかなんて…あたし、マトモに恋愛なんかしたことないんだから!先生のせいで…」
俺は呆気にとられた。
この2年半前、俺はこの子を力づくで犯した。最低な始まりだった。だが、その後ずっと快感を共有し、互いの身体を貪り合う間に、心が通い合ってしまったらしい。こんなこともあるのだから、男と女は分からない。
しかし俺は悪党なので、甘い言葉で気持ちを受け止めることなど、できたものではない。代わりに彼女を抱きしめ、ベッドに連れて行って、いつもの倍くらい時間をかけてたっぷり気持ちよくしてやった。
俺は、復讐する相手も、方法も間違えたらしい。その証拠にエリス学園から捨てられて3年近く経ったのに、未だになんのダメージも与えられていない。
それどころか、まるでエリス学園を含むセレブの世界にリベンジ返しされたようになっている。
あゆみの祖父のファミリーに迎えられ、将来が開けたが、その反面もし万一、ファミリーの体面を汚すような犯罪に手を出したら、どんな報復が来るか分からない。
それがイヤならさっさとあゆみと別れてファミリーから抜ければいいのだが、年を追うごとにますます美しく、魅力的になって行くあゆみに、思いがけず好意を向けられて…それを自分から振り捨てるなど、できる男がいるだろうか?
まるで、セレブの罠に絡め取られ、雁字搦めになったみたいだ。
どうにも、逃れられそうにない。
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