次の約束の日。俺はあゆみをエリス学園まで車で迎えに行こうとしたが、「乗り込む所を知り合いに見られたら面倒だから」と断わられた。
ではどうするか?
その日あゆみはなんと、俺のアパートの前までハイヤーでやって来た。
アパートには車の運転ができない老人もいるので、ハイヤーが来るのは珍しくないが、普通JCはセフレの家に行くのにハイヤーを使おうとは考えないだろう。
その日のセックスが終わると、あゆみは「この部屋の鍵がほしい」と言い出した。理由を聞くと「はやく着きすぎちゃった時、外で立ってたら目立つでしょ?」とのことだった。
俺が合鍵を1本渡してやると、それ以来俺が外出している時でも構わずやって来ては、ゴロゴロしている。
どうも彼女は、ここを『隠れ家』として気に入ったようだった。
しかし、かと言って、俺の留守に掃除や洗濯をしておいてくれるということもなかった。その代わり、「使わせてもらってるお礼に」と、見たこともないような高級食材、主に肉を買って来ては、冷蔵庫に入れておいてくれた。おかげで俺の食生活はずいぶん豊かになった。
そんな風に俺たち関係は続いた。
あゆみの存在に癒やされた…とは認めたくないが、次第にエリス学園にリベンジしたいという気持ちは薄らぎ、また生活費も必要だったので、俺は学習塾の非常勤講師を始めた。しかしさすがにここで『JCの先生』をやる気にはなれなかったので、小学生対象の塾を選んだ。まあ、それなりに楽しかった。
それから2年半が過ぎた頃だった。
あゆみは15才になっていた。
俺の部屋のベッドでゴロゴロしていた彼女が、ふと思い出したように
「ねぇ、先生って今、ヒセイキコヨウ?」
俺は彼女が、似合わない堅苦しい用語を使ったのでおかしくなり、
「ああ、そうだよ。エリスでもそうだった。就職してからセイキコヨウになったことはないな」と教えてやった。
するの彼女は少し考えてから
「…正社員、なりたい?」と聞いた。
「そりゃあな。でも大学出てからだいぶ経ってるし、もうマトモな所はムリさ」
俺は内心、『なんでセフレのあゆみとこんな話をしてるんだ?』と思ったが、とりあえず話に付き合ってやることにした。するとあゆみは
「…おじいちゃんに、頼んでみようか?」と言い出した。
この2年半の間、あゆみがゴロゴロしている時とかの雑談で、なぜ県庁職員の娘の彼女がそこまで裕福なのか、少しずつ分かって来た。あゆみの父も高給取りだが、彼女の亡くなった母親の父が、ケタ違いの資産家なのだ。母親からの遺産相続や、祖父からの生前贈与で、あゆみの名義になっている資産もかなりあるらしい。
俺はそれを知った時『とんでもない娘に手を出しちまったな』と驚いたが、何年付き合っていても彼氏ではなくセフレなので、自分には関係ない話だと思っていた。
そもそも俺は、JCに対する性欲の強さは人一倍だが、物欲はあまりないのだ。
金は餓死しない程度にあればいいと思っていた。
「なんでお前が俺の仕事の事を心配してくれるんだ?」
俺が聞くと
「…それなんだけどね、あたしもうすぐ16になるから…」
ここで初めてあゆみは、資産家の祖父とその『ファミリー』の間にある掟について、教えてくれた。
そのファミリーに属する娘は、16までに自分で交際相手を決めなければならない。できなければ、家長の祖父が、相手を決める。政略結婚だ。
一方娘が自分で選んだ男ならば、よほど浪費癖か、犯罪傾向のある男以外なら尊重される。
ここまで聞いて俺はようやく、あゆみがもうすぐ16になることと、俺が正社員になる話がつながった。
しかしあまりに突飛な話だったので思わず
「何おまえ、俺のこと好きなの?」と聞きてしまった。
「そういう訳でもないんだけど……」
あゆみは少し口籠ったあと
「あたしがその気になれば、カレシはすぐにできると思う。先生より若くて、イケメンで、将来ユウボウな…」
「失礼だな!」俺は苦笑するしかなかった。「でもそしたら、もう先生とは会えなくなっちゃうでしょ? あたしたち、スゴく相性がいいみたいだし…」
言いながらあゆみは俺の背後に立ち
「このカラダを手放すのはシノビナイかなって…」と言った。俺は笑って
「そりゃ普通、男の方のセリフだろうが?」と言ってやった。
あゆみが言ったことを分かりやすく言い換えれば、こうだ。
彼女がその気になれば、若くてイケメンなカレシはすぐできるだろうが、そうした男とのセックスでは、俺とヤる時ほど気持ちよくなれるとは思えない。かといって二股はイヤなので、とりあえず俺をカレシに仕立て上げて祖父に紹介する。
だがそれにしても、非正規雇用の塾講師では見栄えが悪すぎるから、今の内になんとかしてしまおう。そういうことだろう。
だがいくら孫の頼みでも、そんな資産家が、会った事もない俺の、仕事の世話をしてくれるものだろうか?
俺は半信半疑ながら、塾講師になる時に創った履歴書と職務経歴書をプリントしてあゆみに渡した。
「どんな会社がいい?」と聞かれたが、俺がエリス学園へのリベンジのために何をしたか知っている彼女に『教師に戻りたい』と言う訳にも行かないので、『教育関係』とだけ答えた。
すると、1週間も経たない内に、ある会社から「入社面接日程のご案内」という通知が届いた。そこは、教育産業業界では最大手、学参や教材の販売から通信教育まで、全国的に展開している超有名企業だった。
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