お母さんがこんな酷い目に会っていた頃、私は眠りについていた。
院長、理事長夫妻の令嬢として暮らすことも可能だったが、地域医療を支えると言う
医療信念を持っていた夫婦の元で育った私は、そんな生活を求めるはずもなく慎ましい
生活を送っている。
お父さんが倒れてからは、お母さんは看護士に戻ってそんな病院を支えている。
藁をもすがる思いで、頼んだ男が病院の乗っ取りを考えていたなんて思いもしなかっただろう。
私は自分の出来る事は自分でやって、お母さんの負担を減らそうとしていた。
私達親娘は病院に程近いマンションで暮らしている。
お母さんは主に夜勤をしているので、夜は私一人だったが、お父さんが目を覚ましてくれる事を
信じていたので有った。
お母さんがちゃんとお父さんを見ていてくれる・・・そう思って学業に勤しんでいた。
学校でも寂しさをクラスメイトに気遣われ無い様にしていた。
何より、お母さんの助けが出来ないなら、せめて負担を減らそうと思っていました。
大好きなお母さんが、日に日に元気がなくなって行くのを見ていられない・・・。
そんな状況でやってきた高山先生・・・初めて見た時には・・・正直言って良い印象は無かった。
私とお母さんを見る目は、優しいお父さんの目と違って、爬虫類の様ないやらしい目・・・。
こんな人が、本当に助けてくれるのだろうかと疑いを持っていた。
しかし、お母さんは大丈夫と私をなだめる。
お父さんの診察も、高山先生が診てくれているらしいが、お母さんは少し心配している様だった。
今までに無く、お父さんの病状が良くないからだ。
今夜も夜勤をしているお母さんを気遣いながら、お母さんが帰ってきたら食べられる様に朝食の
用意をして眠りについた。
翌日、お母さんは普通の夜勤明けより早く帰宅していた。
寝室で泣いている・・・心配になって声を掛けると・・・。
『お母さん・・・お帰りなさい・・・どうかしたの?』
『ああ、ちさと・・・ただいま・・なんでも無いの・・・大丈夫・・・』
『本当?・・・大丈夫?・・・今日は早いから何かあったのかなって思っちゃった
お父さんになにかあったのかなって・・・』
『いいえ・・・なんでも無い・・・朝ごはん食べなさい・・・』
気にしながらも、学校の時間もあり朝ごはんを食べて学校に向かう・・・。
授業が始り、給食の時間になる頃に先生に呼び出される。
『森高さん、今しがた電話があってお父様が危篤なんだそうなの、すぐに片付けて帰りなさい
病院からお迎えが来ているそうよ、早く行きなさい』
そんな事って・・・今朝もお母さんは大丈夫って言ってたのに・・・。
お父さんの顔が浮かんで、涙が溢れてきた・・・。
一刻も早く行かなきゃ・・・そう思って病院の迎えの車を見て驚く・・・。
(あの車って・・・高山先生の・・・よりによって・・・)
お父さんと同じ白いユニホームを着ている、体型のせいかお父さんとは似ても似つかない・・・。
同じ車に乗らなければならない事が苦痛であった。
高山先生は私を見付けるとドアーを開けて私を呼んでいる。
『ちさとちゃん、お父さんが大変なんだ、僕が迎えにきたんだすぐに行こう・・・』
『・・・・・』
何なんだろう?この気持ちは・・・全く善意を感じない・・・。
『今朝急にお父さんの容態が急変してね、危険な状態なんだ・・・』
(なら、どうして主治医になっているあなたが来るの?誰が見ているのよ?)
本当に訳がわからない・・・お母さんが来れないのも理解はできる・・・。
けれど、この人が来るのはおかしいと思う。
それでも仕方なく車に乗り込んだ、お父さんが心配だったから・・・。
車は学校を出て、病院に向かう。
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