面識のない男3人が灰皿を囲んで少女を見ていた。
太った白髪男、気難しそうな眼鏡の男、そして俺。
A「いやぁ、今の子はスタイルが皆いいですなぁ…」
「幾つくらいですかね?今の子は、ぱっと見てもわかりませんなぁ」
B「そうですね、大人びている子もいますが、あの服の感じだとまだ小学生じゃないでしょうかね。」
「中学生になったら、ああいう色のジャージやシャツは着ないでしょう、ブラジャーも着けるでしょうね。」
「でも、子どもといっても今の子は、我々の知る子どもじゃないですよ。」
「セックスだってスポーツの延長って感覚ですから」
A「お、おたく詳しいね、そういうのに何かツテでもあります?」
B「ツテというほどのものでは。昔は教師をしていましてね、廃校になった農学校。」
「夏になると誰が孕んだとか、もうしょっちゅうでしたよ」
「20年前でそれだから今はもう…」
この手の話にすんなり加わるのは、よっぽど情報通か経験者かオッサンじゃないと無理だ。
確かに3人の少女は、大人っぽい雰囲気はあるが、まだまだあどけない。
確かに眼鏡の男が言う事は的を射ていた。
少女達は、一旦動きを止めて、休憩に入ったようだ。
男達もまた無言で少女達を目で追い続けていた。
A「それにしてもいい眺めでしたなぁ」
B「そうそう25年くらい前の話ですが、柳屋の後、一時そういうお店があったんですよ」
A「柳屋?いやちょっと知らないなぁ」
B「蛇の目町に柳屋って小料理屋があったけど、元々あの辺一帯が都会で言う青線でしょ」
「表向きは 料理屋だけど、指名すりゃ上の階で店の娘とヤれるんです。」
A「ほう、そりゃ凄いね」
B「元は、昔の旅籠遊郭でね、料理を運ぶ娘と客が恋仲になった、そりゃ若いから仕方ないってことです よ」
「私の親父が若い頃は、留袖新造とか振袖新造とかの12、3歳の遊女見習いがいてね、女の子も初めては、若い男がいいじゃない。」
「料理運びは相手選びでもあったわけ。で気に入った男にサービスすることもあったらしいね」
「女郎の連れ子や娘だから、結局教えなくても、どうしたら男が喜ぶのか、ちゃんと知っているのさ」
「柳屋のオヤジも、金になるとわかると屋号変えてさ、年端のいかない子どもだけの店にしてね。」
「ほんと悪趣味だよな。」
「でも、あの子くらいの子どもと遊べるとなると、あちこちから変態趣味な輩が結構、集まってきてね」
「一時は、かなり賑わっていたね」
A「へえぇ、で、子どもが本番とか相手するのかい?」
B「相手をするって言っても、もう、あれだよ。」
「連中も高い金払っているからね、もう無理やりさ、犯罪だよ。」
「中には泣いて嫌がる子もいてさ、暴れると押さえつけて、思いっきり尻を、真っ赤になるまで叩いてね。」
「そうして入れると締りがよかったらしいね。」
「それを自慢げに言いふらす輩もいたし、広まって結局は、みんな同じようなことをしていたらしいね」
「大元が女郎だから、どういう風にしたら男が、入れ込むかとか仕込んでいるからさ。」
「子どものくせに涙目になって喉奥まで咥えこんでくるから、正にペットだよ」
「大人2人で押さえつけて犯したとかね」
「いやぁアナルなんて無茶しちゃったね、なんて口々に話をしていた人、何人もいたよ」
A「それは、けしからんな。まったく。で店はもう無いのかい?」
B「大元になった女郎に蠍と蜥蜴の入れ墨があってね、それが店の家紋というか屋号になっていたけど ね、結局は続かなかったね」
俺「いや、凄い情報で俺なんか知らないところだから、あれだけど凄いっすね」
完全に浮いているし、全く話にも加われない。
B「いやお兄さん、悪いね。聞いて貰えて嬉しいね。こちらの人じゃないのか。残念だけど今はもうあちこち再開発で、更地ばっかりだね」
「良かったら、見に行ってごらんよ、南郵便局の裏側、川沿いの道に昔の風情っていうか、なごりがまだ少し残っているよ」
「まぼろしにでも、会えたら可愛がってあげなよ」
俺「はは、ありがとうございます。」
そうこうしていたら、ピザの時間を過ぎていた。
俺「毎月、出張で来ていますので又会った時は、お話を聞かせてください」
そういって二人と別れた。
時間は、とっくに過ぎていたが、注文した品がなかなか揃わない。
結局支払いを済ませた時には、先ほどの二人は姿を消し、踊っていた少女達もいなくなっていた。
いや、しかし凄く濃密な1時間だったな。
部屋に戻り、ピザにかぶりつく。
しかし、さっきの出来事から、ずっと悶々として落ち着かない。
上の空でテレビをつける。試合はもう始まっていた。
しかも、数秒でゴールされる。更にもう1点。
「どうでもいいや」
途中でTVを消した。
しかし、あの少女達、天使というか半端なく可愛かった。
思い返すだけで、ムラムラとしてくる。
しかしあんな衣装で踊ったら、まして人気のない場所なら、下手したら秒で犯されるぞ。
それにどう考えても、不自然だが、俺と何度も目があった。
俺がガン見しているのを分かっていて、足を上げる動作や胸を強調する仕草とかしていた、なぜだ。
想い返せば、あまりに突拍子もない出来事で、俺は白日夢を見ていたのかとも思った。
いつの間にか、ビールを空けていた。散歩がてらに買いに出るか。
いないだろうがもう一度、駐車場を見てみよう。
部屋を出て、先ほどの駐車場を歩く、もう数台しか車は残ってはおらず、当然、あの少女達の姿を見ることも無かった。
実は、南郵便局というのも気になっていた。
スマホで見ると、ここからそれほど離れていない。
散歩がてらに歩き出すが、停まっていたタクシー初乗り470円という表示に思わず目が点になる。
マジか、乗ってくか。
タクシーで行って正解だった。往復すれば4kmの道のりになる。
丁度、初乗り料金で止めて貰い、残り数百メートルは歩くことにした。
知らないところを歩くのも悪くない。
程なくして、南郵便局の前に立っていた。
道を隔てた反対側にコンビニがある。
帰りはそこに寄ってビールを買う事にしよう。
「この郵便局の裏手、川に沿って道があると、たしか言っていたな」
郵便局の横に路地がある。
路地は、行く手を隠すように不自然に弧を描いて曲がっている。
通り抜けると小川が流れている。
川沿いの道を進む。
昔はこの道沿いに、遊郭や女郎宿が幾つかあったのだろう。
そう思わせるような、小川沿いの道、立派な柳が何本か残っている。
枝葉が風に揺られ、まるで手招きしたり、ばいばいと手を振ったり、あっちへ行けと払い除けるような所作をしたりと色々な表情の柳に見えてしまう。
夜に見る旧花街の柳というのは、今も妖しげで寂しいものなのだろう。
100mくらい歩くと、普通の住宅が広がっている。
25年前ぐらい前なら、まだ遊郭の面影が残っていたのだろうが、それらしい雰囲気の建物は残ってはいなかった。
さ、そこのコンビニでビール買って、部屋に帰るか。
そういって来た道を戻る、ここを曲がれば、郵便局の横に出る。
しかし、ほんの少し先に灯りのついた看板があるのが見えた。
「少しだし、見てみるか」
ちかづくと「すこーぴおん ざうるすダンススクール」という、かわいくデフォルメされた、イラストの看板がある。
あ、ダンススクールだ…。
そして、よく見るとイラストは、スコーピオン、蠍だ。
そしてザウルスは恐竜。
恐竜は大蜥蜴からついた名前だと昔、何かで読んだ記憶がある。
あの眼鏡の男が話していた、「蠍と蜥蜴」だ。
偶然だろうか、それともダンススクールになって、今も続いているのだろうか。
看板には、灯りがついている。
奥には、まだ人の気配がする。
先ほどの眼鏡の男の話が頭の中を支配する。
蠍と蜥蜴なんて出来すぎだ、しかしこの界隈に実在していたのは間違いない。
きっと何らかの繋がりが今でもあるのかも知れない。
それに、ダンスを踊っていた少女たち。
ここのスクールの子ども達だったということは、ないのだろうか。
もしそうだとしたら、なぜ、あの男の話の時、タイミングよく踊っていたのか?
今日の出来事は、本当に偶然だったのだろうか。
シンと静まり返り、さわさわと柳の葉が擦れる音の中、バクバクと心臓が耳元で大きな音を立てた。
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