雅代にとって、遥は普通では信じられないような存在だった。
遥のことは、ご近所でも、雅代の仕事関係の人にも、遥の通う学校でも評判だった。
華奢な中性的な美しさに加え、学校の成績も優れ、友達からも人望も厚い。
雅代が遥を連れて街を歩くと、行き交う人が、男女問わず遥に視線を送るのが分かった。
雅代が特に教えた訳では無いのに、立ち振舞いも上品で洗練された印象を与える。
街角で、大きな荷物を持った老女が横断歩道を歩くのに時間が掛かり、歩行者用信号機が赤になってしまった時に、学生服姿の遥が走り寄り、片手を高く上げて車の運転手に危険をアピールすると共に、片手で老女の荷物を持ってあげて安全な歩道まで誘導してあげたことがあった。
雅代は我が子が心配になって見守っていたが、停車している車の運転手も、美しく善良そうな遥の顔を見ると、イライラすることなく微笑んで渡り終えるのを待ってくれていた。
歩道に着いて老女に荷物を返し、雅代の前に戻って
「お母様、お待たせしました。
おばあさんをお渡ししました。」
と報告した遥を見て、親切をされた老女も、付近の人達も皆、母親である雅代が息子に老女を助けるように言い付けたものだと思ったのだろう。
老女も雅代の前まで来て、
「これはお母さん、息子さんから親切にしていただき、本当にありがとうございました。」
と礼を言った。
周囲の人からも雅代親子を誉める声が聞こえる。
雅代は、自分が誉められる事なんかどうでも良かった。
しかし自分の息子が誉められる事は、胸が爆発しそうな嬉しさを感じた。
しかし雅代は遥を甘やかしはしなかった。
遥が真剣に取り組んでやってしまった些細な失敗に対しては、甘美で優しい罰を与える。
前に記したような裸体での庭掃除や真っ白なお尻への鞭打ちは、遥にとって甘美な罰だった。
しかし、母親から怠慢ではないかと見なされると、遥にとってとても辛い「無視」と言う罰を受けねばならなかった。
家事のほとんどを遥がするようになり、まだ要領が良く分かってない頃、掃除や食事の支度で些細な過ちがあったが、それに対して雅代は、息子を鞭で罰してあげた。
しかし、家事に気を取られたせいか、成績が僅かに落ちた事に対しては、母親は息子に二日間何も声を掛けないと言う過酷な罰を与えたのだった。
遥が成績が落ちた事を反省しなかった訳ではない。
テストの成績表を母親に差し出すと、
「お母様!申し訳ありません!」
と床に土下座した。
それでも雅代は、
「お前って、この程度の子だったのね。」
と軽蔑するような口調で言うと、それから二日間は全く口を聞いてくれなかった。
息子は母親に顔を合わせる度に土下座と謝罪を繰り返したが、雅代がやっと息子に声を掛けたのは、息子の目の下に黒い隈が表れてからだった。
本当は雅代も、自分の部屋のドアの外で、ずっと息子のすすり泣きが聞こえるのを聞きながら、たまらない気持ちだった。
すぐに遥を迎え入れ、抱き締めてあげたかった。
それをせずに放置したのは、単にサディストの放置プレイではなく、雅代としてのけじめのつもりだった。
確かに雅代は、既に遥を変態的なおもちゃとして弄んでいる。
しかしそれでも、遥が淫猥な世界だけの存在になって欲しくなかった。
雅代とだけの世界では、隠微な被虐に浸っても良いが、世間に出れば自慢の息子でいて欲しかった。
やっている事が世の中のまともな倫理に反していることは、雅代にも十分に分かっている。
それでも雅代は自分の価値観を養子の遥に押し付けたのだった。
遥はそんな屈折した雅代に拘束されながらも、世間から見たら素晴らしい少年に育っていった。
学校でも途中から剣道部に入部し、懸命に練習を重ねて新人戦で優勝するなどの実績をあげた他、その立ち振舞いがますます美しいものになった。
遥は中学2年生に進級した。
以前は子持ちの親がPTAに行くのを大変だわねえ、と他人事に見ていた雅代だったが、今では息子の事で学校に出向くのは嬉しくてたまらない程になった。
2年でも遥の担任は、あの女性の先生だった。
二人での面談で、雅代は学校での心配事を、率直に担任に聞いてみた。
「お母さん、遥君はもててます。
でも、特定の女の子とお付き合いどころか、周囲の女の子を、全く異性として見ていないみたいですね。」
担任の先生は遥を褒めあげたが、最後にこう言った。
「私から見たら、遥君って出来すぎてるような..。
こう言ったらいけないかもしれないけど、存在が不自然な程。
何か遥君自身にも、彼の周りにも、無理が無ければ良いんだけど..、って感じます。」
その無理は、直ぐに訪れた。
PTAから2週間後、遥をお供に連れて街を歩いていた雅代は、仕事での逆恨みから、刃物を持った男から襲われたのだ。
「キャー!」
悲鳴を上げてバランスを失って倒れかかる雅代は、後ろに立つ遥に抱き止められた。
遥は倒れ掛けた母親を、自分の後ろに回して自分が男の面前に立つ。
雅代は歩道に座り込んでしまった。
「このガキ、どけ!」
男が繰り出したナイフを、剣道をしている遥なら飛び退いて避けることが出来た筈なのに、遥は男のナイフを持った腕を、自分の右脇に抱え込むようにして押さえようとした。
僕が飛び退けば、お母様が..。
瞬時にそう判断したのだ。
男の腕を脇に挟み付けるのは成功した。
しかし、ナイフは思った以上に切れ味が鋭かった。
学生服の脇腹部分を掠めた時、布地を切り裂いて皮膚まで達していた。
動きが封じられた男は、周囲の人から取り押さえられて警察に捕まり、遥は救急車で病院に搬送された。
雅代は病院までは付き添ったが、警察の事情聴取等があり、やっと息子の病室に行った時、処置は終了していた。
医師から「生命に別状無し。しかし筋肉まで切れているので縫合した。数日で退院可能。」と事務的に告げられ、最後に
「勇敢な息子さんだ!」
と賛美されたのだった。
その夜、雅代は遥の病室に泊まった。
二人きりになって直ぐ、遥は雅代に
「お母様は?本当に何もなかったですか?」
と聞いた。
雅代が頷くと息子は、ほーっと大きなため息をつくと、
「僕がもっと上手く防げたら、こんな大変なことにならなかったのに。
本当に、ごめんなさい。」
と謝った。
雅代はそんな息子をじっと見つめていたが、急に椅子を立つと、いきなり息子の頬をピシャッと平手打ちした。
「本当よ。この、役立たず!」
また謝ろうとする息子を遮り、雅代は
「お前!本当はあの男に刺されて死んだら良かったのに..、とか思ってない?」
遥は無言のままだ。
「私の前で、私のために死ねたら..とか勝手な事考えてたんじゃないでしょうね!
そんな勝手な事、許されると思ってるの!」
雅代はもう一度、息子の頬を打った。
「分かったわね?
分かったら、もうこんなドジなこと、絶対にするんじゃないわよ!」
遥が、涙を一筋流して、こくんと頷くのを見て、雅代は口調を改めてこう言った。
「叱るのはこれまでよ。
これは、ご褒美..」
そう言って、雅代はベッドに横たわる息子のパジャマとトランクスを下げると、その可愛いちんこをパクっと口に咥えた。
初めてだった。息子のぺニスを咥えるのは。
昔この子の父で、自分の夫だった男の事を思い出した。
それとは大きさも逞しさも全然違っているが、何か懐かしいさを覚えた。
抵抗しようとする息子を片手で制して、雅代は唇と舌を使う。
ほんの数秒だった。
雅代の口の中に、青々しく鮮烈な香りと味が充ち溢れた。
それを喉から食道へと送り込みながら、雅代も一筋涙を流した。
頭の上からは、息子が、遥がすすり泣く声が聞こえた。
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