兄たちと一緒に暮らすようになってから、兄が運動している姿など一度も見たことなかった私は、兄がストレッチや筋トレを始めても、すぐに挫折するだろうと思っていた。
だが、本来の兄は真面目で努力家なのだ。勉強もすごくよくできる。これと目標を決めれば、地道に着実に頑張り続けられる。それに、自分にとって最も効果的で、ムリなく続けられるダイエット法をネットで探して実行していたので、順調に成果を上げていった。最初の1ヶ月でなんとマイナス5キロ。私は焦りだした。
『どうしよう。このまま行ったら私、お兄ちゃんと…』
2ヶ月目に入ると、さすがに減量がペースダウンして来た。すると兄は今度は
「やっぱり有酸素運動しなきゃダメみたいだ」
と言い出し、あんなに外出を嫌っていたのに、屋外でウォーキングを始めた。運動のジャマだからと、髪も短くして、メガネもコンタクトに変えた。それだけでもずいぶん見栄えが良くなったが、だからといって急にイケメンに変身する訳ではない。少女マンガじゃないんだから。
ウォーキングはやがてジョギングに変わり、距離も時間もどんどん延びて行って…ダイエット2ヶ月目にしてマイナス11キロ!私はいよいよ追い詰められた。
『お兄ちゃんのことは家族として好きだし、助けてもらって感謝してる。でもセックスはいや!まだ中1なのに、愛してない人とするなんて…』
『なんとか、お兄ちゃんにセックスだけは諦めてもらえないかな…ちゃんと、私もお兄ちゃんがスキって言って、キスとかしてあげて、外でデートもして…
お兄ちゃんは優しいから、それで許してくれるかも。でもそれだけじゃ、学校へ行く勇気までは出せないんじゃ…あんなにダイエット頑張ってるのに…』
そんなことを堂々めぐりに考えているうちに、兄に先手を打たれてしまった。
ある晩兄が私の部屋へやって来た。私はよく兄の部屋に入り浸っていたが、兄が私の部屋へ来るのは珍しかった。
「どうしたの?」
「ああ、今体重計乗ったら67 キロだった。あと2キロ…」
「すごいじゃない!よくがんばったね!」
「彩夏、俺、怖いんだ。65キロになったら学校行くって…でも俺、入学してすぐ行かなくなっちゃって、まるで高校のやつらが気に入らなかったみたいに…」
「ホントは、そうじゃなかったんでしょ?」
「でも今更俺が顔出したらなんて思われるか…見た目だって結構変わっちまったし…」
私は兄の決心が揺らいでいると感じ、反射的に励ましてしまった。
「お兄ちゃん、そうじゃないでしょ?」
「…彩夏?」
「65キロになったら私と…するんでしょ?」
「私として、ドーテー卒業したら、学校行く勇気が出るかもって…まだしてないのに、怖いのは当たり前だよ!」
「でも彩夏、ホントにいいのか?俺なんかと…」
「私はもう、カクゴ決めてるよ。お兄ちゃんは?私とするの、怖くなった?」
兄はとんでもない!と言うように、大きく何度も首を横に振った。
「よ、よし!もう一度…」
そう言うと兄は、その日2度目のジョギングをするため、部屋を出て行った。
その背中に向かって「がんばって!」と声をかけたが、兄が出て行ってしまうと
『私のバカ!』と、ベッドの上で頭を抱えたのだった。
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