夕暮れの中、バスを降りて着いたのは理絵が住むマンションの近くの大きな公園。川沿いにあるその公園は寂れていて、遊ぶ子供の姿も無い。ただの広場があるくらいでたいした遊具もなく、利用する人といえば犬の散歩をする人がたまに通り掛かるぐらいだった。そんな公園の一番奥にある公衆便所。
「ここだったら人こなくない?」
理絵は久美子の手を引いて、薄暗い女子トイレに連れ込んだ。
「こんなとこで、なにすんの?」
「へへー、クミちゃんを脱がしちゃうの」
洗面台の鏡の前、背中から抱き付く理絵。
「リエちゃん、なんか痴漢みたい」
「へっへっへー、おとなしくしなー」
二人の笑い声が女子トイレに反響する。理絵は久美子のTシャツを捲り上げた。
「でもリエちゃん、誰がきたらヤバいよ」
「ドキドキする?」
鏡の前でブラの上から胸を触りながら言った。スリルを楽しんでいる。
「はずかしいよリエちゃん、こんなとこで」
「山下さんから聞いたけど、こういうのシュウチプレイって言うんだよ」
背後から廻る理絵の手が、久美子の短パンのボタンを外しファスナーを下ろす。その姿が目の前の大きな鏡に写し出されて、顔を赤らめる久美子。
「やめてよー、リエちゃん」
彼女はその鏡の中でパンツに手を差し入れようとしている理絵に言った。しかし鏡越しに絡ませるその久美子の視線は本気で嫌がっていない。
「こっちむいて、クミちゃん」
久美子が首を捻ると理絵の唇。彼女は自分のそれと重ね合わせた。交換される吐息を通して、互いの興奮が伝わる。
「んー」
「クミちゃん、おヘソまる出しー」
捲り上げられたTシャツは胸の上でくるくると纏められ、パンツは足の付け根へとずり下げられ、その未成熟で少年のような肢体が公共の場に晒された。その肌は僅かに届く残照に照らされているためか、はたまた火照っているせいなのか、うっすら赤く色づいている。
「は、はずかしいよー、リエちゃん」
両脇の下から生えた手が久美子の乳首をもてあそぶ。だらりと腕を垂らしてされるがままの久美子は息を荒くし、虚ろな瞳でそんな自分の姿を見つめる。
「こんなところ人に見られたらどーする?」
耳許で囁く理絵はサディスティックの虜。恥ずかしい事をされながらも濡れてしまう久美子。その時、夕闇にすっかり暗くなってしまった女子トイレは、センサーが働き蛍光灯が灯った。
「きゃっ」
光に包まれる白い肌。理絵の右手は胸から下半身へ。ねじり込むように下着の中へ。
「クミちゃん、なんか湿っぽいよ? ほんとエッチなんだからー」
久美子の息遣いと濡れた音がやけに大きく反響する。
「えっ!」
その時である。ふと女子トイレの外を見た久美子の目に、黒い人影が映った。心臓が止まる思いで声も出ず、焦って下着と短パンを上げる。その様子に理絵も気づき、二人は急いで個室へと避難した。
「い、今、誰かいたよね」
小声で言う久美子の顔は青ざめている。
「アタシよく見えなかったけど、ぜんぜん気づかなかったよ。見られたの?」
「わかんない。どっちむいてたか見えなかったし」
次の瞬間、二人は息を呑んだ。タイル床でサンダルを引きずるような足音。それが確実に近づいて来るのだ。二人が逃げ込んだのは一番奥の個室。やがて扉の下の隙間に見える白いタイルに、影が差した。久美子と理絵は口に手を当て息を殺す。強く抱き合い、見合わせる互いの目は涙ぐんでいた。
コンコン。
ノックの音。背筋に冷たい物を感じながら、理絵は震える手で同じように二回ノックを返す。
コンコンコン。
再びノック。扉の向こうの気配は動かず。しかし足元の隙間の影が色濃く、一層暗くなった。そして微かな鼻息が聞こえて来る。覗き込んでいるんだ。そう二人は思った。
「出ておいでぇ」
「ひっ!」
戦慄が走った。変にくぐもっていたが、それは明らかに男の声。しかし、今にも泣き出しそうな久美子に対して、理絵は冷静だった。この公園はマンションからも近い。理絵は兄の雅也にSOSのメールを送った。直接電話を掛けようとも思ったが、変に逆上とかされても怖い。彼女は兄に送信したメールの画面を久美子に見せた。
「あ、メールだ」
「へ?」
それは聞き覚えのある声。
「なになに、今痴漢に襲われそうになの。河原の公園のトイレ。助けて……か。ハハハ、おにーちゃんだよぉー、でーておーいでぇー」
理絵は鍵を開け、個室の扉を勢い良く開け放った。そこにはスマホを手にした雅也が。
「バ、バカ兄貴ー! なんで……うっ、うわあぁぁぁん!」
緊張の糸が切れた途端、泣き出した理絵と久美子。
「ハハ、わりーわりー、そんな怖がらせるつもり無かったんだけどさー」
「バカー、しねー、しんじゃえーっ!」
雅也の胸に顔をうずめながら拳で力無く叩く。
「ハハハハ、でもこんな時間にこんな場所に居たら危ねーぞ。俺がジョギングで通り掛かったから良かったものの」
「うぅー……って、あっ」
凍りついた。今さらながら安心している場合ではなかった。
「あ、兄貴……その、み、見たの?」
「ああ、そりゃーもう、ばっちり」
「うぅっ」
再び泣き始める理絵。今度は久美子に泣きつく。
「別にそういう事すんの、ぜんぜん構わねーけどさ、今日なんか母さんも父さんも帰り遅いんだから、ウチですりゃいいじゃねーか」
「だって、兄貴がいるじゃんかー」
「俺のことは全く気にしなくていいって。俺は理絵が何しようと干渉しねーし。だから好きなだけ久美子ちゃんとチチクリあえ!」
久美子は顔を真っ赤にして俯いていた。実際半裸で立っていたのは久美子の方なのだ。
「……ぜっったい、だれにも言わないでね」
「言わねーさ。それよりもお前が変態チックなプレイに目覚めてくれて、兄ちゃんは嬉しいぞー」
雅也は終始ニヤニヤしていた。女子トイレの外は、もうすっかり暗い。
「まー、何はともあれ帰るぞ。続きは自分の部屋でやんな。それとも、公衆便所ってのが露出プレイっぽくって興奮すんのかなー?」
「う、うるさい! やっぱりバカ兄貴、しんじゃえー!」
家に帰りたくないという気持ちもある久美子は、一度落ち着くために理絵のマンションへ寄らして貰う事にした。兄にメールを送りながら、コンビニに寄って軽食を漁る。
「しかし、久美子ちゃんとウチの理絵がそういう関係だったとはね。最近やたらウチ来て宿題とかやってたから、なんかアヤシイとは思ってたけどさー」
食器棚から取り出してきたコップに麦茶を注ぎながら雅也が言った。
「兄貴けーべつした?」
「しねーよ。前から言ってっけど、女の子はみんなエッチなんだから気持ち良けりゃ何したっていいさ。ただ、今日みたいな危ねーマネだけはすんな。変な野郎にレイプでもされたら終わりだからよ」
「……ごめんなさい」
二人を見て久美子はいい兄妹関係だと思い、羨ましくも感じた。しかし一方で、雅也と潤三が自宅に来た時、彼らにフェラチオさせられた時の事も思い出してしまう。
「でさ、やっぱいつも理絵が攻めで久美子ちゃんが受けなの?」
「うるさいなー、いいじゃんどっちだって!」
照れる理絵と久美子。それでも明るく笑い合えるのは、雅也が性に対して寛大だからなんだろうと久美子は思う。
「なぁ理絵、お前ちょっと下のコンビニ行って飲み物買って来てくんね?」
「さっき買っとけば良かったじゃん」
「すまん、ストック無いの忘れてたわ」
理絵は渋々小銭を受け取り、サンダルを履いて出て行った。部屋には雅也と久美子が残され静寂が訪れる。やがて、雅也は神妙な面持ちで切り出した。
「アイツ、久美子ちゃんには多分言ってないと思うんだけどさ、実は前、男に強引にヤラれちゃった事があってさ……」
「え?」
経験した事があるとは理絵から聞いていたが、あまり詳しくは語ろうとしなかった。
「別にレイプって訳じゃねーんだけど初めての相手がロクでもねー奴で、以来男を気嫌いするようになっちまったんだよね」
「しらなかった……」
「だからってレズに走るようなヤツじゃないと思うんだけどさ、久美子ちゃんアイツの事、よろしく頼むよ」
「雅也さん……」
「こっち引っ越して来て友達らしい友達も久美子ちゃんしか居ないみたいだしな」
「うん、あたし、リエちゃんのこと好きだから」
「ところで琢郎のヤツ、相変わらずオナニー手伝わしたりしてんの?」
「……うん」
「まったくアイツもなぁ、妹は風俗嬢じゃねーんだから。さっさと彼女作りゃーいいのによ」
「ウチの兄ちゃんじゃムリだと思う」
「ハハハ、まー、わがままで女の子気遣ったり出来なさそーなヤツたけどな。でも久美子ちゃん、この前の事、理絵には内緒にしてんから安心しな。俺、理絵にどんな兄貴って思われてんか分かんねーけど、俺たちが久美子ちゃんにエッチな事したって知ったら、それぞれ気まずくなっちまうと思うんだよね」
「うん、ありがとう」
いいお兄さんだと思う。しかし、山下さんたちとの撮影会の事を知ったら、この人はどう思うんだろう。そんな事を久美子は考えた。
山下と会うのは三回目だった。理絵は彼と頻繁に連絡を取り合っているらしく、妙な信頼関係が出来ている。また二人にとって山下は、エッチたけど優しいオジサンといった印象も持っていた。
「なるほどね。一人暮らししている訳でもないしラブホに行ける訳でもないしね。カラオケボックスだってリスクと金が掛かるし、キミらみたいに小学生だとなかなか難しいよね」
「そうなんですよー。バスとかプリクラとかじゃキス以上はムリだし。ね、クミちゃん」
「うん、でも、このまえ公園のトイレでしたときはドキドキしたな。もう怖いからヤだけど」
普通の小学生がする事ではないという自覚はあった。しかし二人は付き合い始めの恋人同士のように、互いの体を求め合っていた。
「なんだ色んなことしてんじゃん。そう言う時、また写真撮らしてよ」
「うん、ジャマしなければいいよー」
「ハハハ、邪魔はしないよ理絵ちゃん。茶々は入れるかも知んないけどね」
三人はファミレスで食事を済ませ、午後からの撮影会の打ち合わせをしていた。打ち合わせと言ってもほぼ雑談で終わる。
「さっき言ってた二人のプライベート空間だけどさ、ウチの別荘使いなよ。ちゃんと車出して送ってあげるから」
「いいんですか?」
「うん。ただその代わり、カメラ構えてる男が何人か居るかも知んないけど」
二人きりという訳にはいかないにしても、あの場所なら自由に羽を伸ばせる。そう理絵は思った。理絵の自宅でも良かったが、誰もいないタイミングがなかなか無い。
「山下さん、あたし、また縛られたいなー」
「いいよ久美子ちゃん。じゃぁ今度はもっとエッチな縛り方、してあげるね」
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