8月に入って少し経った。僕は飼育委員会に入っている。当番制で夏休み中の動物たちの世話をしに今日学校へ登校する日だ。彼女も同じ委員会に入っているがついて来るという。
彼女の当番じゃない事をを伝えるが「デートみたいで楽しそうじゃん!学校も誰もいないんでしょ?」デート…付き合い始めてから大した場所へは行けていない。
小学生の財力では大きな公園、市民プール、近所のお祭り、ショッピングモール、図書館ぐらいしか行けていなかった。小学校最後の夏休みだし少しでも思い出作りになればとOKした。
母親に貰った野菜と水筒をショルバーバッグに詰め昨日のやりとりを思い出しながらキャップを被り待ち合わせ場所の一階エレベーターホールへと向かった。
動きの遅い二機のエレベーターが上下に動いている。外は蝉の鳴き声がけたたましく鳴り、太陽が熱く照らしている。学校へ行くのも少し躊躇う。
さらには学校に行くときは歩いて行かなければならない。自転車での登校は禁止されている。外を見ながらため息をついていると「やぁ」と後ろから聞こえた。振り向けば彼女が手を上げて立っていた。
「暑いねぇー行くの辞める?」冗談めかして僕の隣に立った。髪を一つに括りキャップを被っている。「せめて自転車で行けたらね…」「そうだね」彼女の横顔にドキッとした。
「じゃあ行きますか!」彼女の号令でエレベーターホールを後にした。
しばらく歩いているとこの暑さのせいか彼女の口数がいつもより少ない事に気づく。「家にいた方がよかったんじゃない?」僕が言うと「嫌だ」と少し強めに返してきた。
少し先の信号が赤に変わったのが見えたので彼女の手を引き日陰に避難した。僕はショルダーバッグを前にしてバッグから水筒を取り出して彼女に渡した。
「ありがとう」冷えた麦茶を一杯飲むとまた注ぎコップをはいと渡してくれた。「ありがとう」麦茶を飲み始めた時、僕らの近くで自転車が止まる音がした。
「あれ?どこか行くの?」と女子の声が聞こえた。麦茶を飲み干し、声が聞こえた方角を見ると同じ団地の五階に住む中学生がいた。
「あ、こんにちは!」彼女が挨拶をした。僕はあまり接点はないが彼女の姉が同級生という事もあってか仲がいいようだ。「あれぇ、デート?」と少しニヤニヤしている。
「ううん違う、今から学校に行くの」「学校?」「わたし達、飼育委員会に入っているからうさぎ達のお世話しに行くの」「そうなんだ、暑いから気をつけてよ!またね」と
笑顔で手を振って去っていった。彼女が手を振り二人で見送ったと同時に信号が青に変わった。
横断歩道を渡っていると「あのお姉ちゃん、キレイだよね」と彼女が喋り始めた。確かにアイドルグループにいてもおかしくないような綺麗な顔をしている。
「中学一年の時大変だったみたい」と彼女は続けた。「学校一イケメンの3年生に告白されて付き合って、それに嫉妬した上級生に嫌がらせをされたり」
「しかもそのイケメン、悪い奴だったみたいで…」「悪い奴?」「そう、付き合ってすぐ家に誘ってエッチしようとするヤリちんで有名みたいで」「ヤリちん…?」
ヤリちんの言葉の意味を聞く間もなく「あのお姉ちゃんの性格を利用したんだろうね。あのお姉ちゃん優しすぎるから…」「し、したんだ…」「うん…」
「しかも」と彼女がまた続けた。「そのイケメン、エッチをやるだけやってすぐ別れるんだって。ヤリ捨てって言うらしいよ」
「でもお姉ちゃんとは中々別れなかったみたい。デートらしい事なんて何もなかったらしいよ。会えばずっと家でエッチだって」「今は別れたの?」
「うん、うちのお姉ちゃんと友達達で説得して別れさせたんだって。別れた後も無い事をイケメンが学校中に言いふらして大変だったんだって」
「そんな変なやついるんだね…」僕は呆気に取られ大した返しができなかった。
学校に到着して飼育小屋に向かった。校庭では泥まみれで野球の練習している人、体育館からもバスケのドリブルの音が聞こえてくる。
飼育小屋の前に到着すると「意外と人いるねぇー暑い中よくやるよ」「僕も中学生になったらあんな感じなのかな」「運動部入るんだっけ?」と彼女が返してきた。
僕は飼育小屋のダイヤルロック錠のナンバーを合わせながら「うん、バスケ部に入りたい」と返した。「流行ってるんもんね」と彼女は少し茶化すように言ってきた。
飼育小屋の扉を開けて中に入った。うさぎがいる部屋の前に行くと五羽のうさぎ達が水と餌を求めドア越しに僕らに寄ってきた。
彼女が「来たよー」とドアを開けうさぎ達に声をかけ二つのフードボールを手に取り、「ちょっと待ってねー」と近くの水道で水を多めに入れて、うさぎ達に渡した。
大きめのフードボールに入った水に群がるうさぎ達の横にちょこんと座り「喉乾いてたよね」と優しくうさぎを撫でる彼女の横顔に少し見惚れてしまう。
水を飲み終えたうさぎ数羽が、僕の方に寄ってきた。「餌も早く頂戴だってさ!」「あ、うん。今出すよ」ラビットフードを装い僕も中に入った。
「がっつくねぇー」と彼女はうさぎ達を撫でている。僕はショルダーバッグから家から持ってきた野菜の事も思い出しフードボールに出した。
「チャボにも餌あげてくるね」と僕はうさぎを彼女に任せ隣の部屋のチャボの世話する事にした。
僕はチャボの小屋掃除に夢中になっていた。小屋の中に1つある空き部屋にチャボを移動させ徹底的に掃除した。彼女も気づいたらうさぎ小屋の掃除している。
数十分は経過した頃、汗をかき、しゃがみながら世話をしていると突然後ろから「ねぇ」と聞こえ僕は驚き立ち上がった。
振り向くとそこには俯きながら立っている彼女がいた。少し怒っているようにも見えた。「ど、どうしたの?」「暑い中ほったらかしにされて寂しい…」
「ご、ごめん!チャボが可愛くて…」鼻を啜る音が聞こえた。涙を拭うように手で顔を擦っていた。やってしまったと急いで彼女の側に寄り顔を覗き込んだが
槌泣きだった。彼女の顔がニヤニヤしている事に安心した。「なんだぁ…」「なんだじゃないよ!」「ごめん、夢中になりすぎた」
僕は「ある程度終わったし、そろそろ帰ろうか」と近くの水道で手洗い学校を出た。
学校を出てからは彼女のマシンガントークがない。何か話しかけても大した返事がなかった。前と同じような状況だ。大体何か考えてる時だと僕はもう知っている。
何を言われても驚かない。「ねぇ」彼女が僕を見つめくる。「エッチなビデオ見に来る?」「えっ?!」「夕方まで誰も家にいないから…」僕は「う、うん見てみたい」
恥ずかしそうな表情でわかったと彼女が言い、僕らは足早に団地へ向かった。
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