2/3
萌絵雄に全てを報告して理解してもらうまでに、いったい何分かかっただろうか、こんなことを。
血相を変えて夫に訴える蜜満子なのだが、あまりの動揺で言ってることがよく理解できない萌絵雄であった。
「あたし、見たの」
「うん。 何を?」
「倫子さんと、慶子ちゃん」
「おお。 見たのか。 そか」
「お風呂場にいるところ、見ちゃったの」
「おお、見たんだろ? 一緒に風呂、入ってたのか、へえぇ~」
「ちがうぅっ。 見たのぉっ」
「わかったからさぁ、こっち座れよ」
そう、蜜満子は見たのだった。
「倫子さ~ん、いるぅ~?」
二人とも2階にいるのだろうか。
聞こえないのだと思って少し待ってみたが、一向に返事がない。
脱衣所のドアの奥からシャワーの音がわずかに聞こえてくるだけだった。
しかたなく、ちょっと失礼かと思いながら玄関を上がって脱衣所の前まで行き、ドアをもう少し開け広げてみる蜜満子。
中を覗くと、風呂場のドアが見えて、嵌め込まれた模様ガラスの向こう側に二人のシルエットがあった。
ただ黙って見ている蜜満子だったが、訳もなく、何でだろうと思いながら心臓の鼓動が速くなっていくのがわかった。
なぜなら、二人のシルエットは、二つではなく、一つになっていたのだ。
(ん?、、、、、)
エンボス加工された模様ガラスなので中の様子は基本的にぼやけて見えるのだが、二人がドアに近い位置に立っているのか、体の向きや動きはおろか腕の位置までも直視に近いほど想像できた。
20センチはある筈の二人の身長差から、左を向いた小さい体、右側に大きい体、そして腕の位置、つまり、慶子の後ろに倫子が立ち、二の腕を脇の付け根まであげた慶子の胸部に、背後から倫子の腕が伸びているようだった。
そのうち、倫子は方ひざ立ちでしゃがみ、より胸を触りやすい体制をとった。
伸ばした倫子の腕はランダムに動き、明らかに慶子の胸部全体を撫でているのがわかった。
(そっか、洗ってるのよね、体を。 そうよね、、、、、)
何を疑う訳ではないが、無理やり納得する満子だった。
今度は慶子がクルっと向きを変えて倫子と対面し、倫子は低い位置から慶子の腰部に腕をまわした。
慶子も倫子の肩越しに腕をおき、高低差が無くなった頭部が接近し、二人の顔が接した。
恐らくであろうが、二人が唇を重ねる姿が、蜜満子には容易に想像できた。
倫子と慶子のキス・シーンを、蜜満子は確信せざるをえなかった。
(え? あたし、意味わからない、、、、、)
わからないのか、わかりたくないのか、蜜満子はそんな気分だった。
しかも、二人の体が微妙に動いていることにも蜜満子は気付いた。
ピッタリと体をくっつけて、ヌルヌル、ヌルヌル。 そんな動きは確かにヘンであった。
とっさに蜜満子は、かつて自分が経験したことを思い出した。
シャワー室で英子夫人と胸を密着させて、石鹸にまみれてヌルヌルとうごめき悶えたレズ経験。
あの時の自分たちの姿のように見えたのだった。
倫子と慶子は、体に石鹸を塗って体同士で撫で合い、ヌルヌルしながらキスしている、そう想像するしかない蜜満子だった。
(うそでしょ、慶子ちゃん12歳、ありえないよ、、、、、)
そして、若干の話し声が聞こえたかと思うと、今度は慶子が倫子の背後に回り込む。
慶子は、膝立ちした倫子の肩にウットリいとおしむような感じで頬を当てて、腕を倫子の乳房へとまわした。
慶子の両手が、倫子の乳房を、揉み始めた。
たわわに膨らむ倫子の乳房を慶子の両手が揉んでいることは間違いない、蜜満子はそう思った。
慶子が揉みやすいように、二の腕を大きく頭上に上げる倫子の仕草をも見てとれた。
シャワーの音と、倫子と慶子のガラス越しのシルエット。
蜜満子の鼓動は音が聞こえるほど激しくなっていたが、幸いにも聞こえるのはシャワーの音だけであった。
これは何かの間違いなのか、いや、見えているのだから間違いではない、そう思うしかない蜜満子だった。
その間5分、いや10分、いや15分、倫子は激しい鼓動と共に、虚脱したかのような抜け顔でそっと山本邸をあとにした。
「ちょっと、マジかよ、ホントだろうな」
「ええ。 間違えないわ」
「レズってた。 ってことか?」
「でしょう」
「ちょっとまてよ、姪御さんって確か中1だったよなぁ? こないだまで小6だったんだぜ? 中1でレズやるってか?」
さんざんスケベなロリ妄想しているくせに、萌絵雄もいい気なものである。
というより、そんなことが現実におきる訳ない、というのが社会倫理上の基準であるから仕方ないだろう。
「おまえさぁ。 それ、なんかの見間違いだろ」
「えー? 見間違い? ん~ん、見間違いかなぁ」
「いくらなんでも、あり得ないだろ。 ガラス越しだろ? 見間違いに決まってんだろ」
「でも、体同士が密着してたのは確かよ。 お互いに触り合ってたのも確かなの」
「だから単に洗いっこしてたんじゃないの? 俺たちにロリ願望とかあるから、そんなふうに見えちゃったんじゃないの?」
「んん~ん、そうなのかなぁ」
「そうだよ、単純に体を洗い合ってたんだよ。 エッチなことしてたんじゃないって」
「う~ん。 でもあたし、確かにエッチっぽく見えたのよ」
「あのさぁ、よく考えてみろよ。 中1だよ中1、お堅いとこの奥さんだよ、倫子さん。 おまえが一番よく知ってるだろ」
「うん、そうだけど。 あたし、もういっぺん、行ってみようかなぁ」
「バカだなおまえ、行ってどうすんの。 今レズやってました?って聞くのか?」
「そうだよね」
萌絵雄に説かれて正気に戻ったのか、いや、あたし初めから正気だから、と、いっこうに煮え切らない蜜満子だった。
「だけどね。 ずいぶん前だけど、ちょっとヘンなことがあったの」
「ヘン?」
「倫子さんちにお邪魔した時に、土日で泊まりに来てた慶子ちゃんが帰宅する間際だったの」
「うん」
「その時に倫子さんが玄関で ‘バイバイのキス’ を慶子ちゃんにしてあげてたの」
「ほう」
「あたし、見てないフリして居間の陰から見てたんだけど、その時のキスがちょっとエッチっぽかったのよ」
「エッチっぽかったって? どういうこと?」
「なんか胸ピッタ~リ抱き合って、キュウ~って感じで見つめ合って」
「ほう、それで?」
「うん。 一回すればいいのに、唇をチュウって尖らせて2・3回やってたの、キス。 しかも唇同士で」
「ほう」
「あれって絶対レズっぽい」
「ほう」
「だってさぁ。 何で唇にキスするのよ。 おでことか、頬にするのが普通でしょ」
「ほお。 な~んちゃって」
「もうっ、ちゃんと聞いてよっ」
「わかったわかった。 でもなぁ蜜満子。 エロ小説じゃないんだから、おまえの勘ぐり過ぎじゃないのか?」
「だったら、なんで何回もするの? 何で顔傾けるの? 何でピッタリ抱き合うの?」
「うん、なるほど。 三十路と12歳かぁ。 オバサンと姪っ子かぁ。 へえぇ。 アタマ混乱してきた」
「もうったらぁ」
そりゃあ、そうである。
この目で見てもないのに、萌絵雄にしてみれば実感が伴わないのも当然であった。
しかし、狂言とも思えないほど動揺する蜜満子の報告を、一応は受け止める萌絵雄でもあった。
これ以上茶化すのもなんだし、そこまで言うなら、という思いで蜜満子を受け止める萌絵雄だが、
まあ、感違いでしょうな、と話半分で片づけるしかない萌絵雄の心中であった。
しかしながら、依然としてアタマが混乱している蜜満子。
「あたし、ホントだとしたらショックだわ」
「あんなに視姦したくせに?」
「あの時は知り合う前でしょ。 それに私たちの妄想だし」
「うん、まあな。 でも事実だとしたら、あの時の服装も納得いく気がしてきたなぁ、エロかったもんなぁ」
「でしょっ!」
「おっ、おまえ怖いよぉ」
「わざわざ薄い生地のTシャツをインナーもなしで着せていたし、自分もオッパイ強調する服を着ていたし」
「でもさぁ。 おまえ、倫子さんの前でこのこと態度に出すなよ、おまえら今は友達なんだからな」
「うん」
「ホントかどうかもわかんないんだぞ、間違ってたら大変だぞ、信頼も友人関係も終わるぞ」
「うん、そうよね。 そうだよね、うん、わかってる」
そんな会話をしているうちに、時計の針は11時をまわっていた。
あれは、まぼろしだったのだろうか、それとも蜜満子の妄想だったのだろうか。
蜜満子は依然として混乱していた。
そのころ山本邸では、慶子が遅い床に着く時間であった。
「叔母さま、おやすみなさ~い」
「ケイちゃん、おやすみぃ~」
慶子が2階の自室へ行くのを見届けると、倫子も一度2階の寝室へ行った。
パジャマとガウンを脱いで、トップレス姿で透けたロング・ネグリジェに着替える倫子。
‘大人の時間’ という意味なのか、匂い立つほどのフェロモンを放出する乳房が、透け透け生地の下で揺れる。
そして、寝室から出て階段を降りる時、ふと、大人の顔つきで慶子の自室ドアに目配せする。
子供は寝る時間、そう思ったのかどうか、わずかに笑みを浮かべて、横目でゆっくりとドアに視線を向ける倫子。
歯を磨き、ナイト・クリームで顔の張りを手入れし、居間に戻って時間がくるのを待った。
ソファに腰をおろして脚を組み、‘その時間’ がくるのを見計らう倫子だった。
怖いくらい濃密な牝のフェロモンが、オーラのように倫子を包んでいた。
(つづく)
※元投稿はこちら >>