真由が3年生になって間もなくの頃、僕は真由の母親に、家に招待された。
表向きは、進路相談ということだったが、進路相談ならすでにクラス担任とやっているはずなので、半年間個別指導をしてやったお礼に夕飯でもごちそうしてくれるのだろう。
公務員としては当然辞退すべきところだが、僕はそれまで真由の母親と会ったことがなかったので、先々の事を考えると、この辺で一度挨拶しておいた方がいいのでは、と考え、受けることにした。
当日真由の家を訪問すると、応接間で真由と母親が待っていた。
僕は母親に、自分なりに、真由が志望校に受かる可能性について意見を述べ
「このまま個別指導を続けさせてもらえれば、1ランク上の学校が目指せるかもしれません」と言った。
母親は大変喜び、ぜひ今後もよろしくお願いしますと言った。
その後のことだった。
母親は、まるで世間話でもするかのような口調で微笑みながら
「ところで、あなたたちはお付き合いしてるのよね?」
と聞いてきた。
僕は頭から冷水を浴びせられたかのように、一瞬で凍りついた。
真由も驚いて母親の顔を見返していた。
僕はソファに座り直し、「申し訳ありません!」と頭を下げるしかなかった。
母親は微笑んだまま、「深い関係ね?」と重ねて聞いた。僕は
「はい。でも、一線は超えていません!」
と答えた。
毎週真由が来るたび、勉強のあと彼女を全裸にし、クンニでイカせているくせに
『一線は超えてない』もないもんだと思ったが、その時の僕にはそれくらいしか言うべきことがなかった。
真由は恥ずかしさで真っ赤になり、今にも泣き出しそうだった。
すると母親は、穏やかに
「娘は先生のことが大好きですから。一人で先生のお宅に行かせたら、こうなることは分かっていました。」と言った。
僕は驚いて
「分かっていて、僕の家に来させてくださったんですか?」と聞いた。普通の親なら、中学生の娘の恋愛はともかく、男と身体の関係になる事など、分かっていて見過ごせる訳がない。
すると母親は、微笑んだまま「先生は、立派な学校を出てらっしゃるし、公立学校の先生だし。この子の人生でこのあと、これ以上のお相手と御縁があるかどうか…」
すると真由は
「ママ!あたしはそんなことで先生のこと好きになったんじゃ…」と叫んだ。
「そうでしょうとも。でもね、親というのはそういうことも考えない訳には行かないのよ」母親にそう言われると、真由も僕も黙って俯くしかなかった。
「ねぇ先生?うちの子は4月生まれだから、もうすぐ15になるんですよ」
「はあ…」
「あと一年で16。お嫁に行ける年です。だからといってすぐにとは言いませんけど… 責任、取って頂けるんですよね?」
母親の言い方はにこやかだったが、眼が笑ってない。真由はというと、この問いに僕がどんな答えをするか、固唾を飲んで見守っている。
「もちろんです。ただ、時期については真由さんの気持ちを大事にしたいので、二人でよく話し合ってということで宜しいでしょうか?」
真由が眼にいっぱい涙を溜めて、僕を見つめている。
「そうですね。娘のこと、どうぞ宜しくお願いします」
そう言って真由の母は、ゆっくりと頭を下げた。
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