漸く階段を登り詰めたアオイは、薄っすらと汗ばみ、頬を上気させていた。
だが、その汗も赤く染まった頬も階段を登る体力的な負荷が原因ではない。
躯を嬲る冷たい風の感触を味わっている少女に男が声を掛ける。
「ブラウスの下には何を着ているんだい?」
息を呑むアオイ。
一年近くの間に成長を遂げた少女。
その乳房は充分とは言えないまでも、丸みを帯びて久しい。
少女としての嗜みから、肌着一枚では隠し切れない躯のラインを自覚し、カップ付きのキャミソールを身に付けるようになっていた。
途切れがちに呟いたアオイの申告に対し、男は冷酷なまでの指示を下す。
隣で聞いていたミドリですら、頬が引き攣るような指示。
だが、アオイは指示に従い、駅のトイレに姿を消す。
数分後、再び姿を現した少女は、無言のまま手にしているキャミソールを友人に向かって差し出していた。
受け取ったキャミソールをミドリがバッグに押し込む間に、男は券売機で切符を購入する。
三枚のうち一枚をアオイに、一枚をミドリに渡すと残りの一枚を手にした男は、改札を通りホームに向かっていた。
二頭の羊には、追従する以外の選択肢は無かった。
陽はまだ高く、ローカル線、しかも下り電車のホームは閑散としている。
次の下り電車が到着するまでの数分間、アオイは自分の躯に生じつつある変化に気付きつつあった。
アオイだけではない。
ミドリもまた、友人の表情の変化に気付く。
一年以上に渡り、少女が眼にしてきたアオイの表情の変化、それは昂ぶりを意味する表情である。
信じられなかった。
ミドリは勿論、男は愛撫は愚か、指一本アオイの躯に触れてすらいないのだ。
これから始まる、いや、既に始まっている出来事にアオイだけでなく、ミドリの期待と不安が高まっていく。
全ては想像を遥かに超えた出来事に発展していくのだが、二人の少女は未だそれを知らない。
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