何があったのかは分からぬまま、異常な事態に気付いた生徒のうちの一人が、職員室への注進に及ぶ。
睨み合ったまま黙して語らぬ二人の少女を囲み、別々のカウンセリングルームに誘なう教師陣。
『ちょっとした諍い』
別々の部屋でヒアリングを受けながらも、二人の少女は詳細については語らず、些細な口喧嘩に過ぎないと言い張るのみ。
三十分ほど経過した頃。
根負けした教師陣に解放されたミドリが教室に戻った時、硬い表情を浮かべたアオイだけが、ポツンと教室に残っていた。
荷物を取ろうと自分の席に近付くミドリに向かい、アオイが距離を詰めていく。
机を挟んで無言のまま対峙する二人。
沈黙に耐えかね、先に口を開いたのはミドリであった。
「・・嘘・・だよ・・ね?」
「・・嘘じゃ・・ない・・。」
アオイの呟きとその表情に、その真偽を疑う余地は皆無であった。
頭を掻き毟りたい想いに襲われるミドリ。
覆水盆に返らずの諺通り、一昨日、言い放った言葉を取り消すことは出来ず、昨日、アオイが為した行動もまた、取り消すことは出来ない。
激情に任せて友人に叩き付けた言葉が、友人に過ちを犯させてしまったのだ。
罪悪感のあまり、その場で立ち尽くす少女。
もう一人の少女は、誰に聞かせるともなく昨日の出来事を訥々と語り始める。
最初は仲々、声が掛けられなかった。
金額の相場が分からず、難渋した。
結果、二千円、三千円、五千円を三人から得た。
一人目と二人目は手で。
三人目は手と口で。
「・・上手だねって・・褒められちゃったんだよ・・。」
嘲るような笑みを浮かべたアオイ。
だが、少女が嘲っているのは自分自身であった。
淫らな行為を提供する旨を申し出て、対価として金品を要求し、手に入れた少女。
しかも、その行為に誰よりも嫌悪の念を抱いている筈の少女が、だ。
己れの軽率な言動により、友人に取り返しのつかない過ちを犯させてしまった。
それだけではない。
数ヶ月前の性暴力により、深く心に傷を負った友人を再び傷付けてしまったのだ。
耳を塞ぎ、全てから眼を逸らせたいミドリに向かい、アオイは呟く。
「明日、十時に駅で待ってる・・。」
一方的に待ち合わせを約束した少女は、ミドリを置き去りにして教室から姿を消した。
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