「ね。最近、シテないよね・・。」
放課後の教室、唐突に呟いたアオイ。
既に九月も半ばを過ぎていた。
最後に二人が躯を交わしたのは八月の末だから、かれこれ三週間前のことだ。
「あ、うん。・・でも・・。」
中学生が互いの躯を重ね、裸とまではいかなくとも、その衣服の下に手を潜らせることが出来る場所は少ない。
いや、少ないどころではない、皆無だと言っても過言ではない。
敢えて言えば互いの自宅、その個室だが、それとて家人の在宅状況に左右されるのは必至だ。
同性の友人という触れ込みであれば、異性よりはマシであるが、それにも限界はある。
それに互いの生理のスケジュール等の要素を加味すれば、タイミングを合わせて躯を交わすことは至難の業であった。
ミドリにしてみれば、愉しめないのは物足りないが、さほどの問題ではない。
いざとなったら自宅の個室で自慰に耽れば良いし、事実、目覚めてしまった牝の獣をミドリは自慰により宥めていた。
だが、問題はアオイだ。
性の悦びに目覚めたは良いが、それを宥める方法はひとつだけ。
ミドリと交わる以外、アオイには他の方法が無いのだ。
幼く未熟な躯とはいえ、一度、知ってしまった以上は後戻りが効かない性の悦び。
ミドリとてアオイを気の毒に思いつつも、何もしてあげられないのが実情であった。
「しょうがないよ・・。」
ミドリはお決まりのセリフで会話を締めようとする。
それに潔癖を求める少女にとっては、今の状況、つまり同性同士の爛れた行為が出来ない方が望ましい。
対照的に落胆を隠せないアオイ。
ミドリは友人の肩に手を掛け、慰める。
「今度、シようよ。ね?」
「今度・・って、いつ・・?」
アオイは俯いたまま、訥々と絞り出すようにして言葉を紡く。
悶々として眠れぬ夜。
或いは、無駄を承知で、されど淡い期待を抱いてミドリに教えられた通り躯を弄るが、常に結果は同じく不首尾に終わる。
「・・おかしく・・なっちゃうよ・・。」
「・・そんな・・。」
「・・ミドリは、いいよね。」
「え?」
その気になれば、いつでも何処でも自慰に耽り、快楽にその身を委ねることが可能なミドリ。
週に一度か二度は、その独り遊びを愉しんでいるに違いない。
恨みツラミの繰り言を重ねるアオイに対して、鼻白むミドリ。
そんな簡単なものではないと言いたいが、週に三度か四度、或いは日に数回に及び自慰に耽ることもある身としては強気には出られない。
そして、問題はここが教室という公共の場であることだ。
自分の自慰について語られること自体に気が気ではない少女。
周囲を見回せば、幸いにして教室の中は既に二人きり。
センシティブな会話の内容を他の誰かに聞かれる恐れは無い。
安堵に胸を撫で下ろしつつ、アオイに視線を戻したその瞬間、ミドリはギョッとする。
そこには爛々と眼を光らせた、いや、ギラついた眼をした少女の顔があった。
『蛇に睨まれた蛙』の例え通り、身動ぎひとつ出来ないミドリ。
硬直した少女に対して激情に駆られたアオイは、不意に己れの唇で相手の唇を塞いでいた。
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