序章 結
さて、翌日から私に対する周囲の風が、明らかに変わった。
今まで挨拶しても不機嫌な顔をしていた大人たちが「おはようございます」「行ってらっしゃい」向こうから声をかけて来る。
学校でも、急にクラスの連中との距離感がなくなった。面白いのが、昨日まで私の隣で、絶対に机を付けて来なかった女子が、自分から机を付け、何かにつけ「芝崎く~ん」と話かけて来る。
これは昨日、職員室を覗いていた男女数名の「斥候」による所が大きい。しかも女子は、そもそも恵美へのイジメに不満があった上に「ほっぺたペロリ」を、まるでいばら姫の、王子様のキスみたいに寸劇仕立てで話したモノだから、一気に人気者だ。
当の事件も、そもそものイジメは直ぐに発覚し、加担者は親同伴、ガン首揃えて謝罪に来た。
私は、そんな騒ぎとは裏腹に、内面では沈んでいた。やはり、何が本当で何が偽物なのか、どれが真実でどれが虚構なのか、その問題が余計に背後からのしかかる、全くもって信用成らない世の中が横たわっていた。
一つ、救いだったのが事件翌日下校時、下駄箱の中に幾つかのドングリと松ぼっくりが入っていた事だ。
「新手の嫌がらせか?」とも思ったが、どうも悪意がかんじられない。その後、赤い実だったり、季節のつみ草だったり、紫色の朝顔だったり、蓮華の冠だったり。まるで童話の中の動物のお礼の様なソレは、私が小学校を卒業するまで続いた。
※元投稿はこちら >>