一般病棟に移ったと聞いたので、土曜日の午後柚希のお見舞いに病院にいく。母親の努めている病院という事もあり、柚希は個室病棟だった。
病室に入ると柚希は寝ていて、そばにご両親と凛が心配そうにしている。
僕はご両親に挨拶すると、
「お兄ちゃん!」
と言って凛が僕に抱き付いて来る。よっぽど心配だったんだろう。
「お姉さん…無事手術終って良かったね。僕も凄い心配してたんだ。これからご両親はお姉ちゃんの事で忙しくなるから、凛ちゃんはお利口さんでいないとね。」
と言って凛の頭を優しくなでる。
「うん!わかってる。」
それから母親から事故の詳しい経緯や柚希の容態の説明を受ける。
両足は幸いにも複雑骨折ではなく、手術も成功して元通りになるとの事。
成長期だから治るのも早いだろうが、リハビリや精神的なケアも必要だと思う。
1ヶ月程度入院しそれから暫く自宅療養。学校へ行けるのは、それからになるとの事。
学校の先生も時間を見つけて柚希に勉強を教えたり課題を持ってきてくれるらしいが…それだけでは不十分だと思い、
「良かったら、大学の授業の合間、僕が病院に来て柚希の勉強を見てあげましょうか?」
と提案してみる。ご両親は最初、それは申し訳ないと遠慮していたが、
「お兄さん!勉強見てくれるなら私頑張る!ね?パパ、ママいいでしょ?」
と寝ていたはずの柚希が言う。どうやら僕達の声を聞いて目を覚ましたようだ。母親が、
「倉田さん…この前は凛の面倒も見てもらったし、お世話になりっぱなしで…。」
と申し訳なさそうな顔をする。
「全然平気ですよ。僕は教職を目指してますし、自分の勉強だと思ってますから。」
と言うと、ご両親2人が頭を下げ、
「倉田さん…宜しくお願いします。」
と言う事で話がまとまる。柚希は嬉しそうに喜んでいる。
「みんなに遅れないようしっかり教えるからね。柚希ちゃん頑張ろう。」
と言うと横にいた凛が、
「お姉ちゃんばっかりずるい!凛もお兄ちゃんに勉強教えてもらうもん。お兄ちゃんの家庭教師、お休みは嫌だもん。」
と暫く中止にすると言っていた家庭教師の再開をおねだりしてくる。
「本当に申し訳有りません。倉田さんには負担をかけますが、凛の家庭教師も来週から宜しくお願いします。」
と凛の一言で再開が決まる。これも柚希が命に別状がなかった事が一番の要因だろう。それに両親から凛に寂しい思いをさせたくないと言う気持ちが感じられる。良かった良かった。
それにしても両足骨折は大変だと思う。不自由だしトイレが一番困る。
今日の午前中にカテーテルが外され暫くはオムツだそうだ。
個室とはいえ、ベッドの上で用を足す事は僕だったら苦痛だと思う。柚希も思春期だし、他人にオシメを替えてもらうのは苦痛だろうが、母親が務める病院で良かった。
暫くは母親が付きっきりだから。
「柚希ちゃん…無理しないようにね。それから凛ちゃん…お利口さんにしてるんだよ。」
「はいっ!」
と2人そろって返事をする。
術後3日目でまだ足の痛みがある為、あまり長居するのは良くないと思い病院を後にする。
勉強を教えるのは来週からに…。
月曜日、穂乃花の家庭教師の日。
穂乃花も柚希のお見舞いに行ったようで、元気そうな姿に安心したようだった。
火曜日から勉強を教える為に病院に通う。柚希との病院での話は、またまとめて書こうと思います。
凛の家庭教師の日、暫くは時間を変更し午後7時から。父親が僕を迎えてくれた。父親は仕事を早く切り上げ凛と一緒に柚希のお見舞いに病院に行き、それから家に帰ってくるというなかなか忙しい日を送っている。
凛には真面目に勉強を教える。
柚希の事がありお預け期間を少し伸ばす事にしたが、そろそろ凛もしたくてしたくてたまらないらしい。
「お兄ちゃん…イキたいよ~」
とおねだりしてくる凛。
「まだ…だめっ。お父さんがいるでしょ?それにお姉ちゃんはまだ入院中だし。」
と言って我慢させる。
日曜日の午後、病院に行くと柚希のご両親と凛が先に来ていた。
事前に母親には病院に行くと連絡しておいたので、僕を待っていたようだった。
「倉田さんいつもありがとうございます。」
と最初は雑談していたが、僕にお願いがあると言う話だった。
父親が来週から暫く遠くの現場に泊まり込みで仕事に行かなくてはならなくなったらしい。母親も柚希の世話をしなくちゃいけないのはもちろんの事、土曜日どうしても夜勤に入らなくてはいけなくなり、結果僕に土日、凛の面倒を見てくれないかという相談だった。
願ってもない話だったが、すぐに「はい」と返事するのもどうかと思い、
「今週の土日は自然の家に行かなくてはいけないんです。12月のクリトリスイベントに向けての事前準備があって……。」
と切り出す。ご両親の残念そうな顔もそうだが、凛の落胆の表情の方が大きい。
「そうですか…心配だけど凛には1人で留守番させる事にします。」
と残念そうに言う母親に、
「あの……もし良かったら凛ちゃんもクリトリスイベントのお手伝い、僕と一緒にしてもらえます?クリスマスリースの材料を山で揃えたり、門松用の竹を切ったり、後はキャンドルサービス用のろうそくや備品を買ったりと忙しいので…。なかなか裏方の仕事も大変なんです。」
と凛の参加を促してみる。凛の顔は一瞬にして笑顔になり、
「ね?ママ…私お兄ちゃんのお手伝いしたい!いいでしょ?」
と母親の了解を得ようと必死になる。
「あの~倉田さん。迷惑じゃないですか?」
「全然迷惑じゃありません。裏方の仕事をする事も凛ちゃんのいい経験になると思いますし、もちろん僕も手伝って貰えると助かります。」
「倉田さんが一緒なら安心です。じゃあ…凛の事宜しくお願いします。」
と母親の許可が出ると「やった~!」と凛は大喜び。柚希は少し不機嫌な顔をするも、毎日のように僕と会っているし、凛に不便をかけてる思いから、
「凛…しっかりとお兄ちゃんのお手伝いするんだよ!」
と賛成してくれた。
土曜日の朝迎えに行く約束をすし、少しだけ柚希の勉強を見てあげると、病院を後にする。
実はクリスマスイベントの準備はほとんど済ませてある。自然の家にあえて誘ったのは、山下さんや館長にも参加してもらう為。とっさの思い付きだったが…良い方向へ行った。
早速その旨を山下さんと館長に連絡する。館長から許可をもらわないといけないから。もちろん2人の返事はOK。
来週の土日、自然の家にいるのは僕と
館長と山下さん、それに凛の4人。
凛は自然の家に行く意味をわかってるのかどうか……。
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