明くる日の月曜日、ほのかの家庭教師が終わった後、山田姉妹の母親から電話があり相談したい事があるとの事。
どうしても会って話がしたいと言われ、火曜日は予定がないので伺う約束をして電話を切る。
相談したい事ってなんだろう。もしかして凛の事がバレた!いやいやバレたなら怒って電話してくるだろう。
家庭教師を中止にするとか…う~んなんだろう。もやもやする。
火曜日、夜7時に伺う。山田邸はほのかや優菜の家とは少し離れている。
玄関のチャイムを鳴らすと、廊下を走る音が聞こえる。玄関の扉を開けたのは柚希と凛。
2人ともニコニコしている様子を見ると、悪い話ではなさそうだ。
リビングに案内されるとテーブルには父親の姿が…。職人さんとは聞いていたが、優しそうな雰囲気に見える。
テーブルに座り母親の用意してくれたお茶を口にする。
「自然に家で色々お世話になったようで、ありがとうございます。柚希も凛も楽しかったと喜んでました。特に凛は帰って来てから見違えるようになってびっくりしています。今回家庭教師をしてくれるそうで、宜しくお願いします」
父親から丁寧な口調でお礼を言われる。仕事がら忙しく娘たちにかまってやれなくて…と言う事だった。
電話では言えない事…つまり父親との顔合わせだったのか。
それから家庭教師の話を含め父親と雑談し打ち解けた頃、
「ところで本題なんだが…明日から一ヶ月程遠い場所で泊まり込みの仕事が入ってしまって。その前にお世話になる倉田くんと顔合わせしておきたくて。」
と父親。その後に母親が口を開く。
「今週金曜日、私朝から仕事が入っていて、夜勤で明くる日の昼過ぎしか帰って来れないんです。いつもだったら柚希と凛2人で留守番するんですが、柚希は修学旅行でいないから凛一人で留守番しなきゃいけなくなってしまって。
子供達の学校は生徒数が多くて、他のの学年の先生も引率するようなんです。だから5年生以下は学校が休みなんです。
凛一人だと心配で。倉田さんに無理を承知でお願いするんですが、凛の家庭教師を含めて一緒に留守番していただけないでしょうか?」
とびっくりするような願ってもない話が飛び出してくる。おいおい、信頼してもいいのか?
修学旅行で5年生以下は学校が休みになるとはあまり聞いたことないが、生徒数が多いならあり得る。
僕は凛の顔を見ると恥ずかしそうな顔をしている。
「僕は大丈夫ですが、凛ちゃんはどうなんですか?」
と聞くと、
「凛が言い出したんです。倉田さんと一緒だったら留守番できるって。凛が自分からそんな事を言うなんて初めてだったもので。だからちゃんと会ってお話したくて、わざわざ来てもらってすいません。」
と、こちらは嬉しい話なんだが、両親は申し訳ないと言う顔をしている。
それにしても凛がこんなに積極的になるとは思ってもみなかった。
柚希の顔を見ると少し不機嫌に見える。そうだろうな~。本当は自分も一緒にいたいのに、凛に先を越されるって心配してるんだろうな~。
でもとっくに先を越されてるけど。
僕は柚希にだけわかるようにウインクする。
「いえいえ、私で良ければお手伝いさせて頂きます。凛ちゃんにはしっかりと勉強してもらいますので、安心して下さい。」
「ありがとうございます。これで安心しました。」
いろんな意味での勉強ですけど…。
母親が出勤する朝8時前にお伺いする約束をし、それからは柚希や凛も含めて雑談で盛り上がる。
夜の9時を回り、そろそろ帰る時間。
玄関に見送りに来る柚希に、
「修学旅行楽しんで来てね!」
と言うと、
「お土産買ってくるね。お兄さん…凛を宜しくお願いします。」
とお姉さんらしい言葉。
僕のは柚希の耳元で、
「柚希、好きだよ。来週の家庭教師、楽しみにしてる。」
と囁くと嬉しそうな顔を浮かべる。柚希のフォローも忘れないように。
「凛ちゃん…金曜日宜しくね!」
「はいっ!宜しくお願いします。」
と会話を交わした後、ご両親に挨拶し帰路に着く。
まさか凛と留守番を頼まれるなんて思ってもなかった。凛と2人きりになるのは、なかなか難しいと思っていたが、こんなに早く機会が回ってくるなんて。楽しみだ。
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