履き慣れない下駄のせいで、なかなか早く歩く事が出来ない優菜。その仕草がまた可愛い。
「優菜……下駄歩きづらいんでしょ?慌てなくてもいいからね。いつもの優菜と雰囲気が違うから、なんかドキドキしちゃうよ。」
すると優菜は僕の手をギュッと握り見上げ、
「優菜もドキドキしてる。それにさっき車の中でお兄ちゃんが胸さわるから……」
「こら……周りに聞かれたらどうするの?」
エヘヘと笑ってごまかす優菜。それこそヒヤヒヤしてくる。お祭り会場へ着くと優菜と同じ年頃の浴衣姿の女の子がたくさんいる。中には可愛い子も。
ここは天国か……。優菜と一緒だから変に怪しまれる事はない。ゆっくり露店を見て回ると、優菜の同級生の女の子達が話しかけてくる。
「優菜ちゃんもお祭りに来てたんだ!横のお兄さんは誰なの?」
優菜はなんて答えるんだろう。と思っていると
「お兄さんは…優菜の家庭教師の先生なの。優菜がお祭り一緒に行こうって誘ったら、OKしてくれたんだよ。いいでしょ?」
いいでしょ?って優菜はそう思ってるけど、同級生は果たしてそう思うだろうか?女の子達は、
「優しそうなお兄さん。優菜ちゃん良かったね。」
優しそうなお兄さんか……。お世辞でも嬉しい。
優菜は暫く同級生達と話した後、
「じゃあ…またね!」
と言って僕の手を引っ張る。優菜の同級生の子達ともっとお近づきになりたかったけど仕方ない。
露店でかき氷を買ってあげ、食べながら歩いていると前から少し背の高い…多分155センチぐらいはあるだろうモデル体型のスレンダーな女の子が1人歩いてくる。
おっ…可愛い、と視線を送っていると優菜が、
「あっ……穂乃花お姉ちゃん!」
と声をかけびっくりする。名前は河野穂乃花。どうやら一緒に通学する班の班長らしく小学6年生だとわかる。この子が6年生だとはびっくり…ひなや優菜とはまるで違う体型に大人びた雰囲気。さすがに浴衣越しに見える胸の膨らみはまだ小さく見える。長い髪をポニーテールに結び、襟元から見えるうなじが妙に色っぽい。
軽く会釈をすると、優菜が家庭教師のお兄さんだと
僕を紹介してくれる。
だが、穂乃花が僕を見る目がなんか違う気がする。
そんないやらしい目で見てるつもりじゃなかったがどうして?僕がロリコンだと気付いたか?悪く言うと軽蔑するような視線。
優菜は穂乃花のそんな視線を気にする事なく話している。お姉ちゃん…じゃあね!と別れ歩き始めた瞬間、穂乃花がつまづき転びそうになる。
「あぶないっ!」
と言って転びそうになる穂乃花の手を素早く掴む。
するとびっくり……。穂乃花は強い口調で、
「触らないで!変態!あなたも私の体触りたいんでしょ!」
と言われびっくりして慌てて手を離す。せっかく助けてあげたのにこの言われよう。あなたも私の体を触りたいだけ?という事は他の誰かに触られたのか?
触りたいのは図星。心にぐさっと刺さる。優菜の手前
怒るわけにもいかず、
「ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったけど気に触ったら謝ります」
と頭を下げちらっと優菜を見ると凄い怒った顔。
優菜は穂乃花の前に行き、
「お兄ちゃんは穂乃花お姉ちゃんを助けてあげたんだよ。それを変態だなんてひどい!大好きなお兄ちゃんをそんなふうに言うなんて……お姉ちゃんのバカ!グスン……グスン……もう一緒に学校行かないから。」
泣き出してしまった。変態……それは否定しないけど。
泣きながら僕に抱きついてくる優菜の頭を優しく撫で、
「優菜……僕をかばってくれてありがとうね。お姉ちゃんきっと虫の居所が悪かったんだよ。」
穂乃花に向かって頭を下げると一変表情が変わり申し訳なさそうな顔をしている。自分の言った事に罪悪感を感じてる様子。穂乃花は、
「お兄さんごめんなさい……そんな事言うつもりじゃなかったの。優菜ちゃんも……大好きなお兄さんを軽蔑するような事言って…」
どうして言うつもりじゃなかった事を言ってしまったのか気になる。でも…話してくれるだろうか?
「僕は大丈夫。気にしなくていいよ。でも……優菜ちゃんをどうしたらいいか。こんなに怒った優菜見るの初めてだから。」
「………………」
暫く沈黙が流れる。気まずい雰囲気。
「穂乃花さんといったね。良かったらどうしてあんな事言ったのか教えてくれないかな?」
すると穂乃花がゆっくり口を開く。
「男性に触れられる事が嫌なんです。どうして?って聞かれると困るけど。」
おっ…やっと会話が出来るようになった。
「さっき…あなたも私の体触りたいんでしょ!って言ったの覚えてる?それが原因かと思うよ。誰かに触られたのかな?」
言いずらそうな顔をする穂乃花。
泣いている優菜の手を引き、近くのベンチに腰かけると穂乃花も少し離れてベンチに座る。
「僕に厳しい言葉を言った後、少し後悔したような顔をしたよね?また言ってしまったって思ったんでしょ?違う?」
穂乃花ははっとした顔をし、
「なんでわかるんですか?…………私男性を汚いものだと思ってしまうんです。治したいって思っても自分では、どうしたらいいのかわからなくて」
僕は優しい口調で、
「いいかい?物事には原因があるんだ。穂乃花ちゃんがどうしてそう思うようになったのか、トリガーつまり最初のきっかけがあるはず。多分誰かに触られたとか…僕に話せる?」
穂乃花は下を向き恥ずかしそうに、
「私…半年ぐらい前に電車で痴漢に会ったの。スーツ着たサラリーマン風の人だった。お尻触られ……胸触られ気持ち悪くて怖くて声も出なかった。誰も助けてくれなかったの。駅に着いて走って逃げた。それから…男性を見る目が変わったかも。恥ずかしくて親にも言えなくて。」
少し涙ぐんでるように見える。モデル体型の体。体は大人びてるが心は繊細な小学6年生。ショックを受けるのもわかる。
「親にも言えない事を僕によく話してくれたね。ありがとう。それから男性を見る目が変わったんだね。穂乃花ちゃんは治したいって思ってるんだね?」
「………はい。」
僕は暫く考え口を開く。
「きっかけはわかった。治したいって思うなら痴漢に会った時、その時穂乃花ちゃんの気持ちを教えてくれないかな?嫌だっり恥ずかしかったら言わなくていいから。」
穂乃花はコクンと頷く。
痴漢に会った状況を詳細に聞いていく。内心ドキドキしている自分がいる。
混んでる電車、後ろに立った男性がお尻を擦ってくる。最初は気のせいだと思ったけど、だんだん男の手が大胆になっていく。スカートの中に手が入ってきて、恥ずかしくて怖くて声が出せなくて……。話しているうち穂乃花の体が震えてくる。
いつの間にか泣き止んだ優菜も一緒に穂乃花の話を真剣に聞いている。
「穂乃花ちゃん…無理しなくていいから。」
「……うん。」
僕は穂乃花の顔を真剣に見つめる。
「穂乃花ちゃん……恥ずかしい、気持ち悪いって言ったけど、本当にそう思った?そう思ったのは最初だけじゃないのかな?」
穂乃花の心の奥底を覗くように言ってみる。
穂乃花はびっくりした顔で、
「違う…違うもん。最初だけじゃないもん。」
と言うが、そのまま黙ってしまう。
「違ってたらごめん。でも内心ドキドキしたんじゃないのかな?最初は恥ずかしくて怖くて気持ち悪いって思ったのは本当だと思う。でも…途中からはよくわからない気持ちになった。優しい男の手つきにだんだん変な気持ちになって…怖くなって逃げた。」
穂乃花は下を向きながら黙っている。
痴漢に会った時の自分の気持ちを整理しているようだ。本当は最初から最後まで怖くて気持ち悪かったかもしれない。でも僕の言葉にあきらかに動揺しているのがわかる。
思い込ませる……記憶の書き換え。洗脳する人間がする事を穂乃花にもしてみる。
うまくいくかどうか……。
「変な気持ちになった自分が許せない。こんな気持ちにした男がいけないんだ。と思ってる。違う?」
多分穂乃花はプライドが高い。だから自分の体を触りたいんでしょ!と言う言葉が出てくる。そのプライドを取り除いてやる必要がある。穂乃花は顔を上げ僕を見ると、
「違う………違うから……」
声が小さい。図星かも。ここは突き放すように、
「自分に素直になると気持ちが楽になるよ。穂乃花ちゃん今の自分を治したいって思うならよく考えてみて。僕は今の穂乃花ちゃんに魅力を感じない。優菜の方が素直でがんばり屋さんでいっぱい魅力を感じるよ。」
僕は優菜を見て、
「優菜…穂乃花お姉ちゃんの事許してあげようね。それから今話した事は誰にも言ったらだめだからね。お姉ちゃん…傷つくから。わかった?」
優菜は僕を見上げニコッと笑い、
「うん!わかった。お姉ちゃん許してあげる。」
魅力があると言われ嬉しそうな顔をする優菜。
「僕達お祭り行くから。また機会があったらお話きいてあげるから。」
上から目線で物を言うと穂乃花は戸惑っているようだ。自分より優菜の方に魅力を感じると言った事も心に響いてるようだ。多分また会える……絶対僕に話にくる。変な確信があった。
穂乃花はペコリと頭を下げ、
「お兄さんありがとうございました。よく考えてみます。」
おっ…だいぶ言葉使いが変わった。
そのまま穂乃花を後にし、優菜の手をつないで歩き始める。
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