8月のイベントも終わり暫く経ったある日、館長から電話がかかってきた。
夏祭りの日、優菜の母親と食事に行く予定だと聞かされる。僕が優菜と夏祭りに行く日をお互いに選んだようだ。母親は僕に優菜を任せられる日を選んだんだろう。館長も僕に気を使ったようだ。母親が一緒にお祭りに行くと、何かと困る事があるだろう?と思って。
僕にとってもその方が有難い。
でも子供を僕に任せて自分は……。と考えると母親である前に女なんだと考えさせられる。
ひなの母親も優菜の母親も……同じというか、館長はどうやって口説いてるのか不思議に思えてくる。
館長に、ひなの母親も同じ校区だからくれぐれもバレないようにと念を押すと、あれから既に2回食事に行ってると聞かされびっくり。細心の注意を払ってるから大丈夫だという事だった。
その後優菜の母親と連絡を取り、お祭り当日のお昼過ぎに伺う約束をする。
家庭教師について打合せもあるから、早めにお願いしますとの事。館長との予定もあるからだろう。
またひなにも連絡する。夏祭りの事を自分から話す訳にもいけないから、話の展開から夏祭りがある事を知ったふりをする。すると以外にもその日は、泊まりで母親の実家にお墓参りに行く予定だという事だった。
ひなは、残念そうに言うが、祖父母が待ってるそうだから行って来なさい。と言う。家庭教師で直ぐに会えるからとなだめるとしぶしぶ了解したようだ。
これでお祭りでひなに会う心配は無くなり安心して優菜と楽しむ事が出来る。
ひな親子の予定を館長にも報告しておかないとと思い、連絡すると既に知っていた。というか、僕が連絡する少し前にひなの母親と連絡をとっていた。さすが館長としかいいようがない。すると館長が、
「僕もついさっき、ひなの母親から予定を聞いたんだ。それでね、君さえ良ければ2日間お祭りに参加したらどうだ。その方が僕にとっても都合が良いし、君も楽しめるだろう。」
と言われる。その通りだと返事をすると館長が、
「母親の事は任せておけ。なんとか母親を説得してお泊まりしてくるようにするから。」
まじか……。という事は既に優菜の母親とは事を済ませているのか。館長に直接聞いてみると、
「倉田くんの想像に任せるよ。木原さんと村瀬さん2人同時は、なかなか大変だぞ。倉田くんの事は話の中で、色々フォローしてるから心配するな。君の信頼は結構なものになってるから。」
おいおい…この人はどれだけタフなんだ。というかよくやるよ。それに僕の知らないところでフォローまでしてくれている。館長には頭が上がらない。
「館長…ありがとうございます。館長には助けられてばかりで、頭が上がりません。感謝してます。」
「お互い様だからな。倉田くんのおかげでもあるからこっちも感謝してるよ。ハッハッハ。」
館長との電話を切り、改めて館長の凄さを実感する。
さて…優菜の母親が泊まりになり家をあけると言う事が、僕が優菜の家に泊まってもいいという話になるかどうか。小学4年生の娘を僕に任せていいという気持ちになるかどうか。
それから数日経ったある日、優菜の母親から電話があり、
「お祭り当日の日、旧友が会いにこない?と言う電話があり泊まりで盛り上がろうってなったの。」
おっ……館長、もう母親の了解を取ったのか。
「優菜も連れて行こうと思ったけど、倉田さんとのお祭りを楽しみにしてるから、嫌だと言われたんです。」
僕は何も知らないふりをし、
「優菜ちゃん…案外しっかりしてるから一人で留守番しても大丈夫じゃないですか?心配でしたら優菜ちゃんをお祭りから送り届けた後、僕が外で一晩中見張ってますから。冗談ですけど…。優菜ちゃん一人留守番では心配ですよね?なんかお祭りに付き添う約束した僕、責任感じます。」
よくお泊まりの言い訳を考えたものだ。感心させられる。館長……あなたは凄いよ。
あくまでも自分から泊まりますとは言ってはいけない。娘をどうするのか、母親自身に判断させないと。
母親自身に娘を宜しくお願いしますと言わせると、僕も気兼ねなく泊まる事が出来る。すると母親が、
「倉田さん……申し訳ないですけど、優菜の事お願い出来ませんか?優菜一人に留守番させるのは心配なので、倉田さんさえ良ければ泊まって頂ければ……。あの……無理はいいませんのでだめならだめと言って頂ければ……」
どうする?はいと言うのは簡単だが、
「村瀬さん……大事な娘さんを預かるのはやはりしかねます。僕にも責任がありますし。」
とはっきり言う。一回断る、これは賭けだった。僕への信頼を勝ち取る為。すると母親が申し訳なさそうに、
「倉田さん…すいません。私勝手な事ばかり言って。やっぱりお泊まりは断ります。」
しばらく沈黙した後僕は、
「いや…あの…優菜ちゃんさえいいって言えば、責任をもって一緒に留守番させて頂きます。色々考えたんですが、優菜ちゃんが嫌だったら困ると思って。それでは責任取れないですし……大切な娘さんですから。」
すると母親が、
「倉田さんの責任感の強さ良くわかりました。………娘に聞いて来ますので暫く待ってて下さい。」
館長さんの言う通りの人だったわ。と言う言葉が電話越しに聞こえてくる。やはり館長のフォローが効いているし、一度断って良かった。
暫くすると母親と優菜の声が聞こえてくる。
お兄さんお泊まりするの?私大丈夫だよ。ちゃんとお兄さんの言う事聞いて留守番するから!やったー!お兄さんとお泊まり嬉しい!
こら優菜…そんなにはしゃがないの!
いやいや…優菜がOKするのはわかっていたが、そんなに喜んでくれると僕も嬉しいよ。
母親が、
「倉田さん……優菜、倉田さんとちゃんと留守番出来るっていうからお願いします。」
「わかりました。こちらこそ責任もって留守番させて頂きます。」
途中優菜に代わりというか、無理矢理受話器を母親から奪い、
「お兄さん!優菜と一緒にお留守番お願いします。優菜ちゃんとお兄さんの言う事聞くから。」
「優菜ちゃん…お利口さんにしてるんだよ。夏祭り楽しみにしてるからね。」
優菜から母親に電話が代わり、
「倉田さん、すいません。優菜ったら落ち着きがなくて、遠慮なく怒っても大丈夫ですから。」
僕は母親に、
「いえいえ…案外優菜ちゃんはしっかりしてますよ。
大切な娘さんですから、責任もって留守番させて頂きます。」
その後暫く雑談し電話を切る。
うまくいった。これで母親も安心して館長と……。
それにしても父親は大丈夫か?単身赴任だと聞いてるが、突然帰ってきたりしないかよく聞いておかないと心配だ。
さて……これで優菜と色々楽しめる。優菜もそれを望んでいるだろう。頭の中に色んな思いが駆け巡る。
夏祭りが楽しみだ。
※元投稿はこちら >>