それから3年。僕は今年の夏、大学生になります。詩乃ちゃんと同じ、県にひとつしかない国立大学です。
全国的にみたら大したことない学校ですが、県内で就職するなら、ここを出ておけば勤め先に困ることはありません。
大学は4年制なので、詩乃ちゃんとも2年間一緒に通えます。
そんなキャンパスライフを楽しみにして過ごしていた矢先、雲行きが怪しくなってきました。
僕たちを公認の仲にしてくれた、あの祖母が入院し、医者の見立てでは、もうそんなに長くはないとのことでした。
そのおばあちゃんが「生きている内に、詩乃の花嫁姿が見られるかねぇ、ひと目見てから逝きたいねぇ」と繰り返し言うのです。
これには参りました。
親族で話し合った結果、「形だけでも花嫁姿を見せてやろう」ということになり、始めは写真館で、貸衣装で写真を撮るだけ、という話だったのですが…
僕の父が「老い先短い母親を騙すようで、どうにも気が引ける」と言い出しました。
そこで、親族だけでごく簡単に挙式しよう、となったのですが…
いざ式場を予約すると、あの人も呼ぼう、この人にも義理がある、と招待客がどんどん増えて行き、気が付くと普通に、本格的な結婚式になっていました。
僕はまだ、就職どころが、大学生にもなっていないのに。
僕が不安になり、詩乃ちゃんに「どうしよう?」と聞くと、詩乃ちゃんも当惑した顔で「こうなった以上、やるしかないんじゃない?」と答えます。
でもその割に、式場との打ち合わせや衣装選びなんかがあると、僕の母や詩乃ちゃんのお母さんと一緒にいそいそと出かけて行きます。
詩乃ちゃんは今、何を考えているのでしょうか?
詩乃ちゃんのおかげで、セックスだけは上手になったけど、それ以外に取り柄がない僕に、こんなに早く人生を預けてしまっていいのでしょうか?
いや、詩乃ちゃんはきっと、生計を立てる、家庭を営むなどは、僕なんかをあてにしなくても自分で切り拓いて行く自信があるのでしょう。
唯一僕に期待していることがあるとしたら、『決して裏切らないこと』でしょうか。幼い頃から一貫して、詩乃ちゃん大好きな僕が、浮気とか不倫とか、する訳がありません。
その期待に応えるよう、これからも一心不乱に詩乃ちゃんを愛し、大切にすること。僕にできるのは、そのくらいしかないみたいです。
※元投稿はこちら >>