射精したあと、あまりの気持ちよさに、俺は何もできず、真由夏の横に大の字になった。真由夏も同じ。仰向けに目を閉じたまま、しばらく余韻に浸っていた。
俺も、そうしたかった。しかし俺にはどうしても、確認しなければならないことがあった。
「なあ、お前の中で俺は、『初めての男』で決まりなのか?」
すると真由夏は小さく、だがしっかりと、うなづいた。
「…それじゃあ、どうする?俺を警察に突き出すか?」
真由夏はゆっくり、首を横に振る。それはそうだろう。それができるくらいなら、ソロキャンプ教室の翌日にでもやっていたはずだ。
「なら、どうする?今日で終わりか?」
「え?あ、できれば…これからも一緒に…」
これには驚いた。反射的に
「お前をレイプした男でもか?」
と聞いてしまった。半分自白しているようなものだ。
真由夏は少し考え込んでから
「…ばかなことしてるのかも知れない。でも、それでもあなたは私の、大事な人だから…」
『そうか、これもインプリンティングの効果か…』
俺はそう考えた。もしそうなら、いつかは覚めるのだろう。このままデートのようなことを続けても、ある日突然真由夏が我に返り、ひどいフラれ方をするのかも知れない。しかしそれでも、この時俺は、自分から彼女を突き放すことができなかった。
「俺と、付き合うか?」
俺がそう聞くと、真由夏は俺の方に身体を向け、俺の顔を見つめて
「よろしくお願いします」
と言った。
こうして、20代後半の俺と、14歳の真由夏の奇妙な交際が始まった。
その後、何度デートを重ねても、俺の中で『いつ終わりになってもおかしくない』というイメージが消えることはなかった。
だが、そんな日は一向に現れる気配がないまま、淡々と日々は過ぎ、真由夏は高校生になった。
予定通り山岳部に入ったので、俺は自分の経験から、真由夏たちが登ろうとする山の気を付けるべきポイントや、高校生向きの安全な登山ルートを教えたりなど、サポートしてやった。その甲斐あって、真由夏は1年の時から部内で重宝されたようだ。
真由夏の高2の秋。
純粋過ぎるお嬢だった真由夏も、この頃には親を誤魔化すのがうまくなり、『同級生とキャンプしてくる』と言って家を出て、俺と泊まり掛けのキャンプができるようになっていた。
ふたり並んで焚き火の火を見つめながら、俺はふと、3年前と同じ質問をしてみた。
「なあ、今でもお前の中で、俺は『初めての男』なのか?」
真由夏はしっかり頷き
「そうだね、間違いない。あなたは一生認めないかも知れないけど」
「そんな奴と、なんでいつまでと付き合ってるんだ?」
真由夏は少し、火を見つめたまま考え込んでいたが、やがて
「そうだね、あなたは酷い人…」
と語り始めた。
「まだ14歳だった私を、シェラフの中で動けないようにして、口にハンカチまで詰め込んで…片脚だけ引っ張り出して、挿れて来た。私の気持ちとか、まるで無視して…」
俺は「ひでぇな」と相槌を打つことしかできなかった。
「でもね、私の知る限り、あなたはこの3年間、女の子にそんな酷いことはしていない。」
「お前が知らない所でもしてねぇよ」
「…でしょうね。それにあなたは山ではすごく頼りになるし、一緒にいて楽なの。だから、悪党だとしても、離れられない…」
「そうか…」
真由夏のインプリンティングはとっくに解けていた。にも関わらず、俺のパートナーでい続けることを選んだ。
確かにこの3年で、俺と真由夏は登山やキャンプでは子弟関係のようになっていた。しかし、そんなことで?それでいいのか?
そう思っても、俺から突き放すことは、やはりできなかった。釈然としない思いのまま、真由夏との交際は続く。もうその頃は、デートといってもほとんど毎回山歩きかキャンプ。毎回ではないが、職場のキャンプ場近くの社宅アパートに連れて行って、セックスもした。
そして、大した波乱も事件もなく時は流れ、やがて真由夏は3年生になった。
真由夏は成績優秀だったので、俺は当然、卒業したら有名大学に進むものだと思っていた。そうなれば、さすがに俺とのことは終わりだろう。いつ別れを切り出されるか、俺はずっと、覚悟していた。
ところが、秋が過ぎた頃真由夏が、俺の職場の場長に紹介してほしいと言い出した。理由を聞くと、「就職の面接を受けたいから」と言った。
「マジか?大学は?」
「…考えたけど、もう、街での暮らしはいいかなって」
「親は?」
「1年がかりで説得した。私はどうしても、山で暮らしたい。でもまだ知らないことやできないことがいっぱいあるから、キャンプ場で働いて覚えたいって。」
このやり取りで、俺はようやく、真由夏が俺と離れられないと言った理由が腑に落ちた。
つまり真由夏は、俺と同じ。『街には住めない女』なのだ。住めないという程ではなくても、なじめない。しっくり来ない。それが、山で自給自足に近い生活だと、妙に落ち着く。
美少女で聡明、裕福な家の娘の真由夏には、およそ似つかわしくないが、それが真実のようだ。
俺たちは、同類同士、得がたいパートナー。だがそんな真由夏を、俺は初対面の日に、性欲に任せてレイプしてしまった。もっと他の、まともな近づき方があったかもしれない。
だが実際は、俺と真由夏は年も境遇もまるで違う。俺たちの人生が、わずかに交わったのが、たった1泊2日のソロキャンプ教室だった。その縁を切れないようにするには、他にどうすればよかったというのだ?
真由夏はキャンプ場に就職し、俺の同僚となった。そして間もなく真由夏も、社宅アパートに引っ越してきたので、そこからは半同棲状態だ。
俺は年々、キャンプ場にレジャー感覚で来るやつらの相手がしんどくなってきて、いつか本格的な登山客だけを相手にする、山小屋を開きたいと思うようになった。真由夏にそう言うと
「そういう山小屋って、食事出したりもするんでしょ?じゃあ私は、もっとお料理覚えなきゃね」と言った。
どうも、俺がどうなっても、離れる気はないようだ。
古来、山に住む者には、街とは異なるルール、倫理観があった。
自給自足を基本とし、足りない物があると、街で買った。または奪った。山賊とかもそうだ。
思えば俺も、街から迷い込んできた真由夏という娘を襲い、たぶらかして、山の生活に引きずり込んだ。人として生きていくのに必要不可欠なもの、生殖の相手を手に入れるためだ。
それなら、せっかくの獲物を街へ返してやる理由はない。
ここで生殖し、子孫を増やしていけばいい。
とても、自然なことだ。
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