この小説はフィクションです。
文中に出て来る固有名詞は、特定の人物や企業、団体を指すものではございません。
画廊にいた女子高生、京子と出会ってから、3か月あまりが過ぎていた。
俺のモデル登録や後援者への説明など面倒な手続きもすべて行ってくれていた。
後援者は、今どき珍しい個人主で、俺のような昔の人間には、パトロンといった方がわかりやすい。
自分の役は、妓楼に来る客の設定だ。
アダルトビデオではないので、絡みなどは一切無いと早々に釘を刺された。
流石にそんな当たり前の事はわかっている。
そうは言っても絵のモデルの舞香や少女たちと仕事をするのだ。
舞香の絵を飾るようになって、毎日の生活に張りと言うか、気持ちが前向きになっているのがわかる。
朝早くからジョギングで汗を流し、身体を鍛えて、健康そうに見える身体づくりに勤(いそ)しんだ。
撮影の10日前にタイムスケジュール、行程表が送られてきた。
真っ先に舞香の名前を探す。
長谷川らな(9)大隅まほ(10)姫野璃子(りこ)(11)藤島舞香(まいか)(13) 川奈麻由子(まゆこ)(13)
名前を見ただけで心臓が高鳴った。
そしてついに撮影の当日を迎えた。
ここは、待機所になっている旅館の中だ。
撮影場所は、ここから歩いてすぐの和洋折衷の旧家の別荘だ。
俺の出番は、まだまだ先だが、既に用意されたシャツに着替え、スーツに袖を通した。
身支度をしていると、少女たちが着る衣装が掛かったハンガーラックをスタッフが運んできた。
黒やピンク、紫、ベージュ、白、人数分の薄く透けたベビードール。
それを見ただけで、心臓が早鐘のように高鳴った。
まもなく、この衣装を纏った舞香をこの目で見れるのだ。
出番まであと2時間。
すでに落ち着かずソワソワしていると、予定が変わるので、準備をしてくれと連絡が入った。
既に準備は出来ている。
急ぐことはないだろうが、旅館を出発した。
撮影場所の別荘は、坂の上にあり、周囲は雑木林に囲まれていた。
玄関に繋がる緩やかな坂を進んでいくと、神社仏閣のような大きな庇(ひさし)のついた玄関が見えて来た。
「あっ」
入り口には、少女たち5人が並び、客を出迎えるシーンを撮影している最中だった。
少女たちは一斉に自分の方に視線をむけ、軽く会釈をする。
俺をパトロンとでも思ったのだろうか。
5人の中で舞香が特別に輝いて見えた。
切れ長で涼しげな目元、スラリとした姿勢の良い立ち姿。
実物は、絵よりも数倍も美しかった。
何より、絵と同じ神秘的な少女だったのが、何よりもうれしかった。
京子がすかさず、俺を見る少女たちの表情をカメラに収めた。
フィルムカメラなのだろう。
シャッター音とキュウと鳴る、巻き上げ音が心地よい。
「オジサン、ナイス」
よくわからないが、狙った表情が撮れたのだろう。
少女たち5人は、お揃いの白いシンプルなデザインのワンピースを着ている。
「オジサン悪いけど、そこに立ってて。みんなー、視線はあの人、あの人を見てね」
「じゃ次、雨始めてー」
脚立に上っていたスタッフが霧雨のような雨を降らせていく。
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