ゆきとの交際が始まった。
俺はまず、恋人同士になった記念に、スキー板と靴をプレゼントしようとした。新品を買ってやろうとしたが、ゆきがどうしても遠慮するので、大学のスキー部の後輩に連絡を取り、使わなかった型落ちの板と靴を安く譲ってもらった。
ウェアは、従姉妹のお姉さんに、俺の彼女になったと報告したら、お祝いにプレゼントしてくれたらしい。
それから俺は、週末になるとゆきを誘い、あちこち連れ回した。といってもほとんどがスキー用品店めぐりとかで、世間の若者がするようなデートはしてやれなかったが、ゆきは楽しそうだった。
昼食はいつも、安いファミレスかファーストフード。それでも、俺がふたり分の金を精算すると、いつもゆきはすまなそうな顔をした。
相手が誰でも、オゴってもらってもお返しをすることが難しい環境なので、それ自体心の負担になる。それが癖になっているのだろう。
そこで俺は、ゆきに}『お返し』をしてもらうことにした。
ある日の夕方、ゆきに
「今日、うちで晩メシを作ってくれないか?」
と言ってみた。するとゆきは、恥ずかしそうに俯いて
「私が作れるの、節約料理ばっかだから、翔さんの口に合うかどうか…」
「いや、そういうのがいいんだ。一人暮らしだと肉とか揚げ物ばっかになっちまって、ウンザリしてるんだ。」
俺がそう言うと、ゆきは自信なさそうに頷いた。
帰りにスーパーに寄って買い物をして、俺の部屋に着くとさっそく作り始めた。普通中高生の女子が作る料理といえば、パスタとかグラタン、ハンバーグといったところだろう。だがその日ゆきが作ったのは、鯖の味噌煮とワカメの味噌汁、ダイコンサラダだった。そしてそれは、予想以上にうまかった。
「そうそう!こういうのが食いたかったんだ」
そう言ったきり、料理の腕前を褒めるのも忘れて夢中で食べる俺の姿を見て、ゆきはずいぶん安心したようだった。
そんな他愛ないデートを続けながらも、俺はいつも『ゆきとの初めては、どうしようか?』
と考え続けていた。
女の子にとって一生の思い出になることだから、できれば殺風景な俺のアパートとかではなく、ムードのいい場所で迎えさせてやりたい。
だが、いくら考えても俺には『雪景色の中で』くらいしか思い付かなかった。
俺とゆきとが出会ったのは、スキー場。ならば、一緒に雪山へ行き、スキーをしたあと、ロッジとかに泊まるのが自然な流れだろう。
だが、俺は社会人でゆきは中学生。やたらの場所にふたりで泊まろうとしたら、通報されるかも知れない。そうなったら悲惨だし、何よりゆきに悲しい思いをさせる。
俺は仕方なく、またあのロッジの社長に電話して相談した。
社長はいつになく真面目な様子で
「部屋ならいつでも取ってやるが、本当の所、あの子いくつだ?」
と聞いてきた。俺は平成を装って
「ああ。かなり幼く見えるけど、あれで18なんだ。俺の大学のスキー部に、今年入った子で…」
と説明した。
恩人でもある社長を、騙してごまかそうとしたのではない。いくら行き付けのロッジでも、俺のことを知らない客はいるし、通報されるリスクはゼロじゃない。そうなった時、社長かゆきの年齢を知ってて部屋を貸したのなら共犯になるが、俺に騙されたのなら被害者だ。
俺がやっていることが、誘拐、監禁だとか、レイプだとか呼ばれるのだとしたら、非難されるのは俺だけでいい。
すると社長は「まあ、お前のことだからおかしな事はしてないと信じてるけどな。いいよ、いつだ?」と言ってくれた。
次のデートで、俺はゆきに、この計画を打ち明けた。
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