俺はその言葉を聞いて、急にドキドキし始めた。
『どういうことだ?まさか…』
だがすぐに、自分の中学時代を思い浮かべ、思い直した。
あのころ俺たちは、特に告ったりした仲でなくても、お互いの家の部屋に入れてもらっただけで、それまでより親しくなれたようで、妙に嬉しかった。ゆきもきっとそういうことを期待しているのだろう。
「俺の部屋なんか来たって何もねぇぞ。スキーの本とビデオくらいしか」
「それでもいい。連れてって。」
今思い返せば、いつも遠慮がちで控えめなゆきが、ここまでキッパリと自分の希望を口にしたのはこの時が初めてだった。
俺は車を自分のアパートへと走らせ、ゆきを部屋に入れた。
狭い2DK。その内ひと部屋はスキー用具置き場になっていたので、残りひと部屋にベッドと座卓が詰め込んであった。
「その辺に適当に座ってて。冷たいお茶でいいか?」
俺が聞いても、ゆきは返事をせず、壁に向かって突っ立っている。
「どうした?」
俺が言うと突然、俺に背を向けたまま、従姉妹のお姉さんから借りてきたピンクのスキーウェアのファスナーを下ろし、脱ぎ始めた。
「お、おい!なにを?」
俺が戸惑っている間に、ツナギのウェアを足元まで下ろし、アンダーウエアとスキータイツだけの姿になると
「シ、シャワー…借りてもいいですか?」
と聞いた。
「あ、ああ。こっち…」
俺がトイレの横の小さなドアを指差すと、ゆきは脱いだウェアを抱えて俺の横をすり抜け、バスルームに入っていった。
シャワーの音が鳴り響くのを聞きながら、俺は頭をフル回転させて考えた。こんなことを考えるのは、慣れてない。
ゆきは、大人しくて控え目なボンビーガール。その認識は間違ってないはず。それが、知り合って2週間の男の部屋で、こんな行動に出るとは。
いくら考えても、その理由はひとつしか思い浮かばなかった。
『もしそうなら、俺はどうしたら?』
結論が出ない内に、ゆきが出てきた。裸にバスタオル1枚の姿で。そして、俺とは目を合わせずにベッドに横たわり、目をつむった。
俺はためらった。このまま手を出したとしても、ゆきは受け入れてくれるだろうし、それでふたりの関係が終わってしまうこともないだろう。だがしかし、いくらなんでも…
「ゆきちゃん、服着て。」
俺が言うと、ゆきは涙声になり
「やっぱり…ダメですか?こんな子供の身体じゃ…」
「冗談じゃない!これでも、今にも飛びかかりそうになるのを、ガマンしてるんだ」
「ガマンしなくていい!」
「けど、それは、ゆきちゃんにとってすごく大事なものだろ?それを、スキーのお礼なんかのために…」
「お礼なんかじゃない!」
「……」
「す、好きなの!すごく。翔さんのことが。一日中翔さんのことばっか考えちゃって。だから、もう…」
ゆきのこの言葉は、もちろん俺にとって、天にも昇るほど嬉しかった。
自分の中学時代を思い出せば、友達で好きな子に告白して付き合いだした子もいたが、せいぜいふたり切りで出かけたり、キスしたりする程度。よほど長く続いて、深い関係になった子もいないではなかったが。
ゆきの周りの同級生とかの恋愛も、おそらくそんなものだろう。なのにゆきが、告白と同時に身体の関係になろうとしているのは、大人である俺に合わせようとしているに違いない。
ならばここは大人の余裕を見せて、ゆきの気持ちを受け入れた上で、『でもこういうことは、もっとお互いよく分かってからにしよう』とでも言ってあげようと思った。だが…
結局のところ、このあたりが俺にとって、ガマンの限界だった。
俺はベッドに上り、ゆきの耳元に口を寄せて
「俺もお前が好きだ」
と囁き、胸の上で止めてあったバスタオルを、ゆっくり開いていった。
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