夜のバイトだという大介を見送った後、結理はぐったりとベッドに倒れ込んだ。ま
だ部屋の中には激しい性交の残り香が漂っている。(いったいどうなっちゃうのか
しら…私たち)結理は最近の大介がわからなくなっていた。
今日は昼ごはんに、結理が作ったパスタを2人で食べた。そのあとは…後片付けも
早々に縛られ、床に組み敷かれて貫かれた。このごろは、緊縛されて挿入されるだ
けで頭が真っ白になってしまう。「ごきげんよう」のTVの音を聞きながら、汗ま
みれになって腰をぶつけ合う。にちゃにちゃ言う粘液の音が、真昼間からの緊縛セ
ックスの汚辱感を高める。
射精も1回目は腹の上、2回目は胸の上、3回目は顔にかけられた。その都度身体
に精液を塗り広げられ、非の打ち所のない曲線美に彩られた若い肉体が、饐えた匂
いの白濁粘液で化粧掛けされ、とことんまで汚し抜かれた感じを覚える。
絶頂するたびにAV女優のように「イキます」と言わされるのも恥ずかしかった。
さっきまではモデル並みの清純な容姿だった女子大生が、全身を精液と愛液と汗の
ブレンドにまみれ、大股を開かされて剛棒を打ち込まれ続けている。大介のおそる
べき絶倫ぶりもさることながら、ふだんとの落差――表参道を2人でデートすれば、
皆が振り返るようなさわやかな大学生カップル――が、昼間から精液まみれの緊縛
セックスの快楽に耽っているという現実が、結理をよけいに戦かせる。
もののように扱われているから――いや、そうではない。愛されていればセックス
の表現の仕方はどうでもいい。結理はだから大介の変態趣味を喜んで受け入れたわ
けだが――何か最近の行為は、別のものに対する執着を、自分の身体に代償として
吐き出されているような気がしていた。(まさか…でも…)幸せいっぱいのはずの
付き合い始めの時期なのに、悩みが大きくなっていく。
三郎からの電話は「悩み相談」だった。いや、製造物責任法というべきか。
「麻衣が…さしてくんないんだよー」と情けない声が受話器の向こうからする。と
もかく話を聞く。
「最初の1週間は順調だった…従順な小学生を縛っておまんこを犯し、さんざんに
喘がせて奴隷の誓いをさせることができた…でも1週間目に緊縛を拒否された。そ
れはまだいい…普通にセックスできたから」
「しかし翌日は挿入も拒否された…慣れないがすごんでみせたが、『訴えたらあな
たが終わりでしょ』と軽くあしらわれた…そりゃそうだ、と思った…それからは麻
衣のいいなりになり、やれ高級ディナーに連れていけ、遊園地に行こうと振り回さ
れていた」という。
「…なんだそりゃ」「しょうがないだろー、確かに立場はこっちが不利なんだから」
(そりゃ、最初からそうなんだ。わかってないのか)と言いたかった。
「で、どうしろと?またさせて欲しいと頼むのか?」
「昨日…別れてくれと言われちまった」と泣く。「はあ?」
「できなくても構わないから、別れたくないんだよう」「…」
「おまえが仕込んだんだから、きっと言うこと聞くよ。だからさあ」
「…わかったわかった。聞いてみる」
三郎はいろいろお礼やらお願いやらぶつぶつ言っていたが適当に切った。(どうい
うことだ?順調に行っていると思っていたが…)
呼び出したらあっさりと部屋にきた麻衣が、Tシャツとジーパン姿でソファに座っ
ている。ラフな格好でもこの2週間でぐんと女っぽくなったようには見える。
「あら…」と机の上の写真立てを興味ありげに手に取る。
「これ…大学の彼女?」「あ、ああ…」この間結理が買って、セットして置いてい
ったやつだ。
「ふうん」と言って裏に伏せると、こちらを見る。
「で、庄司さんはなんて?」(庄司さん、か)
「セックスしなくてもいいから、別れたくないそうだ」
「あら…」と言って笑みを浮かべる。オレは既に失敗を確信していたが、疑問に思
っていたことくらいは聞いておくことにした。
「なにが…違ったんだろうか」「そうね…」と麻衣は首をかしげ真面目な顔をする。
「思ってたほど、セックスがあたしにとっては凄いことじゃなかったってことかな」
「…」
「オナニーしてる時は…しちゃったら、どんなスゴイことになるだろって期待がふ
くらんで…確かに大介さんに最初にされた時は、本当に凄かったの」とすこし顔を
赤らめて微笑む。
「学校でお尻にされちゃった時も、どうなっちゃうんだろうと思うくらいで…で、
2人で犯された時が頂点だったかも。でも…庄司さんとしてるうちに、同じことの
繰り返しのように感じてきちゃった」と言って立ち上がると、窓の近くへ行く。
「脱がされて、舐められて、いれられて、こすられて、だされる。その場では気持
ちいいけど、あたしにとってはそれ以上のものではなかった、ということかな」
「…そうか」
麻衣の言ってる意味はわかった。とても小学生が言うせりふではないが、慣れてし
まえばそれが日常の一部になってしまう人は多いものだ。この歳にして、きわめて
現実的というべきか。
「…ともかくわかったよ。三郎にはよく言っておく」「ありがと」
「でも…まことは、ちょっと違うかも」と麻衣がつぶやいた。「え?」
「ううん。じゃ、帰るね」
「悪かったな」
麻衣がマンションのエントランスを出てきた時、向こうから思いつめたような顔を
した美人が歩いてきた。(あれ…)
立ち止まってじっと見る。女子大生風の美女が近づいてきて、少女の視線に気づく。
「あの…」「え?」
「おねえさん、森さんの…?」
「…!」(なに?この子…)
「ああ、ごめんなさい。森さんの本屋さんでの知り合いなの」といってぺこりと会
釈する。
「ああ…」と結理の顔がほころぶ。(でも、家に行くほど親しいってこと…?)
わずかに不審げな結理の顔を見て、麻衣に悪魔の心が宿った。口元に笑みがもれる。
「森さんに相談に乗ってもらってたの」「え?」
「私の親友の…まことが森さんと付き合ってるから」「…!」
意味ができず、ぼうぜんとする結理に追い討ちをかける。
「来年中学受験なのに、どうしようって」「あ、あなた…!」
「ごめんなさい、急ぐから」と言って麻衣は走り出す。振り返ると、硬直している
女性の姿が見えた。(ふふ…これくらいの復讐は許されるわよね)麻衣はぺろりと
舌を出した。
しかし2人とも、話しているそばを作業服姿の地味な女――島田英子が通り過ぎて
いたことにはまったく気づいていなかった。
三郎がようやく麻衣のことを諦めてから1週間経っていた。「これ以上つきまとう
と、2人とも淫行で訴える」と言われたということにした。そう言われては、失う
ものの多すぎるあいつは引っ込むしかない。結理も最近サークルが忙しいといって
連絡が途絶えがちだ。まこともいない。オレも三郎も淋しい夏の終わりを迎えよう
としているわけだ。
ある日の午後、部屋で昼寝をしているとドアベルが鳴った。「はいはい…」と言っ
て手が止まる。モニターには結理が映っていた。約束なしで来るのは初めてだ。何
か、予感がした。
結理は黙ったまま、ソファに座っている。突然、意を決したように口を開けた。
「まことちゃんを、愛してるの?」
いきなりの直球だ。おそらく、もうすべてを知られている。
「…わからない」
「!…わからないって…じゃ、あたしは?」と美しい顔をきっとさせる。
「ごめん」
「!!」
いずれこんな時がくるとわかっていた。いま感じていることを正直に言うしかない
と心に決めていた。
「…自分でもよくわからないんだ。ちょっと話していいか?」
「いいわ」硬直したままの顔。
「結理のことは嫌いじゃない。いや、世間並みから言えば好きなのかもしれない…
だってキレイだし、性格もよくて、頭もいい…それに俺のわがままも聞いてくれる
…100人に聞けば、100人が結理のことを理想の恋人っていうさ」
黙って聞いている。
「結理を抱いたのは、うその気持ちじゃない…それに、縛った女しか愛せないのも
本当だ。理性では結理とこのまま付き合っていれば、大人として何の問題もない…
理想の2人になれる…そんな得な条件を選ぶのになぜ躊躇する?と自問自答してい
た」
「だが、まことと出会ってしまった」結理の眼が見開かれる。
「知ってると思うが、まことは12歳の小学生だ…世間では絶対に許されない関係
だ。あいつに普通ではまったく許されない行為もした。このまま関係を続けるのは
反社会的と非難されて当然だ…でも、何度考えても、すべての好条件を備えた結理
より、すべての悪条件を備えたまことを…選んでしまった」
「…」
「謝って許されることじゃないが…申し訳ないと俺は言うしかない」(さすがに、
麻衣と三郎のことは口にできなかった)
「…もう、いいわ」結理が横を向きながら言った。「ユーリ…」
「でも、最後にビデオを見せて。まこと…さんの」(麻衣に聞いたのか…)
「…わかった」
結理は、座ったまままことの絶頂ビデオを食い入るように見ていた。俺は窓にもた
れて外を眺めていた。(まこと…いま信州で何をしているんだろうか…)
「大介」ビデオを止めて振り向いた結理の顔は、昔のさわやかな友人の顔に戻って
いた。(ああ、こいつにしばらくこの顔を忘れさせていた)と罪悪感にかられる。
「よく、わかったわ」「…」
「わたしは、セックスが人生にとってそれほど重要なものだとは思ってないわ。で
も、それに溺れる人の気持ちも…わからないじゃない。大介クンとの経験で」
ちょっと顔を赤くする。
「でも…何かの引き換えにするほどのことはないの。だから、わたしは大介クン向
きの相手じゃないってことよね」「ユーリ…」
「いいわ。身を引いてあげる」と、いたずらっぽい顔をする。
「でも…こんないい女をフッておいて、絶対あとで後悔するから」
「ああ、そうだな」(本当だ。いまでも少し惜しいと思っている)
「でも大介クンはわたしの恩人だし、友達だってことはかわりないから」「うん」
「じゃ」と言って立ち上がる結理。ふと気づいたように付け加える。
「あのビデオは全部消した方がいいわ。何かの事故が起きないとも限らない」
「ああ」
「…最初の経緯は知らないけど、たぶん、もう必要ないものなんじゃないかしら」
(そんなことまで気づくとは、まったくつくづくいい女だ)と後悔の念が増す。
結理が帰ったあと、まことへの思いがさらに強くなった。(まこと、いつ帰ってく
るんだ)。
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