※※※サツキとヤヨイ※※※
レッスンが始まり数ヶ月が経過、制服の衣替えも済ませ、蒸し暑さに耐えられない日が増えてきた頃のこと。
レッスンが終わり、少女達が三々五々と帰途に着く中にサツキとヤヨイ、連れ立って歩く二人の少女の姿があった。
他人の空似なのだが、二人の少女は外見から性格まで姉妹と見紛う程に似ており、通っている中学校の制服でしか見分けられないと噂される程。
しかも互いに大人しく地味な性格から気が合うのだろうか、仲が良い。ショウビジネスの世界を目指す少女達の中では、その控えめな外見、性格からは毛色が違うと目されていたが、当の二人の関係は確固たるものとなりつつあった。
「・・ねえ、サツキ。」
帰宅の途を辿る少女達の群れから充分な距離をとった頃、やや沈んだ表情を浮かべたヤヨイがサツキに話しかけてきた。
「ん?なぁに?」
ヤヨイの顔を覗き込むと、そこには逡巡の色があり、ヤヨイが次に発する言葉を慎重に選んでいることをサツキは見て取った。
「・・やっぱり・・いい。何でもない。」
「え?気になるー。言ってよぉ~。」
「うーん。誰にも言わないでくれる?」
「うん、いいよ。二人だけの秘密。あ、分かった!恋バナ?」
「あはは。違う違う。あのね・・。」
「うんうん。」
「最近さ、アソコが・・・変っていうか。」
ヤヨイが口にした『アソコ』には特別な響きがあり、サツキにもヤヨイの逡巡の理由が即座に伝わった。
『アソコ』、つまり女性器についての悩みを思春期の入り口に立ったばかりの少女、しかもよりによってヤヨイが口にするとはタダゴトではない。
居住まいを正す、というわけではないが真剣に対応すべく、サツキは声を潜める。
「・・変って・・どういうふうに?」
「・・たまにムズムズするっていうか。」
「!」
言葉を選びながらポツリポツリと途切れがちなヤヨイの話をサツキが総合すると、最近、自慰をするようになってしまい、しかも決まってレッスンが終わってから自宅に帰った頃、場合によっては帰宅途中から衝動に駆られることもあるというのだ。
「へ、へえー。そうなんだぁ。」
「サツキは・・・そういうことってないの?」
「うーん。無い・・かな。」
嘘だった。
しかし、いくらヤヨイが相手であってもサツキ自身の自慰について口にするのはハードルが高過ぎた。
しかもサツキは嘘をついたことにより、ヤヨイの信頼を裏切ってしまったのだ。
「・・あたし、いやらしいのかなぁ。」
「そ、そんなことないよ。だってヤヨイ、そんなペッタンなんだから、まだまだオコチャマ。大丈夫、大丈夫。」
「あ!言ったなぁー。サツキだってペッタン星から来たペッタン星人じゃん。」
『ペッタン』つまり乳房の膨らみ具合が未だ途上、というよりも、少年といっても差し支えない程の躰つきをした二人は『ペッタン』を連呼し、いつも通りに賑やかなオシャベリをしながら最寄駅に辿り着く。
家の方向が違う二人は、いつもここからは別々に家に向かうのだ。
「じゃあね、ペッタンのサツキちゃん、また来週。」
「そっちこそペッタンのクセにエロいヤヨイさん、またね。」
いつも通り別れた二人は互いに背を向けた瞬間、偶然にも同じタイミングで溜息を漏らした。
(・・ヤヨイには・・嘘ついちゃったけど、あたしも同じ。いやらしいこと、やめられないんだもん。)
(・・サツキはしないんだ。じゃあレッスンとは関係無く・・あたし自身が・・いやらしいだけ・・なのか・・な。)
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