※※※キサラギとシモツキ※※※
「来週からフェーズ5だったかな?早いものだね。」
この時代、喫煙習慣を持つ者は極めて少なく、社内に喫煙室を設ける企業は稀だが、それ故にちょっとした密談にはもってこいの場である。
無煙の電子タバコを手にしたキサラギと向かい合うシモツキの手には、昔ながらの点火して煙を吸う煙草があった。
「はい。ジェルに含まれる催淫成分は当初の1000分の1から1000分の5になっていますし、カウンセリングや健康診断も完了しています。」
「ほほう。で?結果は?」
満足そうな口振りでキサラギに先を促すシモツキにも、結果報告の資料は提出済みなのだが、促されるままに先を続ける。
「オーデイションに受かった人数が45人、オリエンテーション以降の初回レッスン参加した人数が41人、4カ月近く経過した現在、レッスンに継続的に参加しているのは19人です。」
「前例が無いから、脱落率が高いのか低いのか分からないな。」
「恐らく15ヶ月後、最終的には10人前後に収まるのではないかと考えております。」
キサラギの予想は数値的な根拠があるわけではない。
しかし定期的に実施する面談でキサラギと対面した時の表情や態度、それに加えて、これも定期的に実施されるメディカルチェックの結果とをキサラギなりに分析した結果は、今のところ予想通りに推移していた。
「ふむ。その10人の中に例の3人、SとYとKは残ると思うかい?」
「分かりませんが今現在、脱落の兆候は見受けられません。ただ・・。」
「ただ?」
「あの3人が今後どうなっていくのかが気になっています。」
キサラギの懸念、それは興味であり不安であったが、敢えて具体的にシモツキに告げないのは、3人を含めた少女達の行く末が悲惨なことにならないように可能な限りの援助をしていきたいからだ。
シモツキの機嫌を損ねたら、もしくは逆鱗に触れてしまったら『粛正』されてしまうかもしれない。
そうなったらキサラギは少女達に関与することは出来なくなるばかりか、キサラギ自身の身も危険に晒されることになるだろう。
「確かに興味深い進捗をしているね。あの3人は。」
キサラギの内心の葛藤には頓着せずにシモツキは続けた。
「優等生タイプとガリ勉秀才タイプと天才タイプってとこかな。」
「?」
・平凡だがインプット、つまりレッスンにより施された効果が突出こそしないものの、全ての面で常に想定以上の結果を出している優等生タイプ
・インプットされる内容を事前の予習により突出した結果を出すが、予習不足に弱いガリ勉秀才タイプ
・ムラがあるが、ある特定の部分だけは天性の才能により突出した結果を出す天才タイプ
「分かるかな?」
「分かりません。」
シモツキとキサラギでは手にしている情報の量と質が違うのだから仕方がない。
「例えばYだがデータから判断する限り、性的な嗜好において被虐傾向が極端に強い。彼女はマゾヒストさ。」
「し、しかし極めて性的には保守的な傾向が強く、むしろ潔癖な・・。」
「そうだね。その背反した本質は時に潔癖さ故に被虐嗜好を強めてしまう事があるんだよ。」
キサラギ自身は知らなかった。
ヤヨイの露出癖と自慰による快感への依存度は、この時点で修正不可能なレベルに至っていたのだが、奇しくもシモツキの指摘した通りの経緯を経ていた事を。
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