※※※悪企み※※※
「お嬢さんがたの様子はどうだい?」
デスクワークに集中していたあまり、人の近付く気配にキサラギは気付かなかった、いや、声を掛けられて尚、この男、シモツキは気配を感じさせない。
(・・このヒトは足音を立てない。)
とは言え、シモツキ氏が存在感が稀薄というわけではなく、むしろ発言力、統率力、企画力、どれを取っても群を抜いており、社内でも実力者として誰もが認めるポジションは確固たるものだ。
「ええ。今、ちょうどレポートがまとまったところですが、ご覧になりますか?」
キサラギから手渡された書類をパラパラと捲りながら目を通したシモツキは満足そうな表情を浮かべると、今回のプロジェクトについて語り始めるが、普段に比べたら幾分、饒舌になっているようだ。
・催淫性のある薬物による少女達の性衝動管理
・管理された性衝動を内在させた少女達
・内在的な性衝動は今までにない魅力
これらによる新しいショウビジネスの確立が今回のプロジェクトの狙いだが、それはキサラギも理解している。問題はその効果の程であろう。
キサラギの疑問を見透かしたかのように、端末を起動するとアクセス権が限られたフォルダを開いたシモツキはある動画を再生する。
「これは?」
「これがレッスン開始から2週間後のレッスン風景、それからこっちは先週のレッスン風景。見比べてごらん。」
再生された動画を比較すれば、キサラギにも一目瞭然であった。
少女達の表情が違う、いや表情だけではない、何かが違うのである。
「・・上手く表現出来ませんが・・違いますね。」
「代わりに表現してみようか?」
「お願いします。」
「一言で言えばエロい。だがコスチュームや露出度、ひとりひとりの外見ではないのは分かるだろう?」
確かにこれ以上に露出度の高い衣装、顔立ちも含めて煽情的な少女達は幾らで思い付く。
しかし、動画の中の少女達は顔立ちは整っているし、手足が長くスラリとしてはいるものの、むしろ概して地味な外見であり、体型も『未成熟』以前の躰付きである。
「オーラっていうか雰囲気、なんですよね。」
「お。いい線いってるね。」
我が意を得たりとばかりにシモツキが続ける。
「桜の木が咲き始める直前ってイメージ出来るかな?」
「桜、ですか?」
シモツキ言わく。
桜の木はツボミの付く寸前が内に秘めたエネルギーに満ちており、そのエネルギーが強大な故に時至った瞬間に一斉に花を咲かせ、散る。
「彼女たちも同じことさ。」
「催淫剤により強制的に高められた性衝動がエネルギーとして満ち溢れていて、それが彼女達を輝かせている、と?」
「まぁ正解かな。」
「そんな・・。」
「では、引き続き彼女達を頼むよ。」
シモツキが去った後もキサラギはデスクに向かったまま考え続けていた。
無理に撓められた若木に無理な肥料を過剰に与える、それは確かに予想以上の成果をもたらすかもしれない。
しかしメリットの裏にはデメリットも必ず生じる。
無理を要求された若木はどうなってしまうのだろう。
折れるだけなら折れた部分から新たな芽が生じることもあるだろうが、裂けてしまった場合はどうだろう。
広いオフィスに独りでキサラギは考え続けるのであった。
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