悠優(はあぁぁぁ~..つかれた~)
(あ~、でもよかったわ~)
(問いただされるかと思ったけど、逆に心配されちゃって
スタッフの皆さんには要らない迷惑を掛けちゃったなぁ~)
スタッフ一同「悠優さん、おつかれさまでーす」
カメラマン「今日もイケてたよ~ お疲れさ~ん」
「次の撮影もよろしくね~」
悠優「あ、ありがとうございます!」
「またよろしくお願いします」
私服に着替えて帰り支度をする彼女に向かって、温かい励ましともとれる皆からの言葉が続いている。
悠優「ふ~・・(溜め息)」
「本当に大失敗だな」
(私ってえっちな上にばかなのかも?…)
ゆったりとしたニットのタンクトップにピッタリとした裾が短めのジーンズとスニーカーを履いた彼女は、ジャケットを羽織って出口へと向かおうとしたその瞬間、不意に聞いたことがある男性の声に呼び止められてしまう。
男「いやあ! 久しぶりだねぇ」
「悠優ちゃん」
「いつ以来だったかなあ?」
悠優「あっ! おはようございます」
「池田さん・・」
「えっと、あの・・一体どうしたんですか?」
「スタジオにいらっしゃるなんて・・」
彼の名は池田と云い老舗の芸能プロダクションで営業を生業としていた。
そんな営業畑の彼がスタジオと云う現場に訪れる事は先ず珍しい事であった。
池田「いやあ、同僚から君がここに居るって聞いたものだからさ」
「それに偶々この辺りで仕事が片付いたばかりなんで」
「つい、ね!」
悠優「・・あ、はあ・・」
池田「そんな事より、前々からの話」
「あれ、真剣に考えて貰えたかなぁ?」
彼は以前から彼女を高く評価していて、自身の所属するプロダクションと契約をさせる為にしつこく勧誘を行っていた。
悠優「その事でしたら以前も申し上げた通り」
「私は今のままのフリーが一番・・」
彼女がそこ迄言葉を綴ると、彼の方があっさりと白旗を揚げてしまう。
池田「そっかー・・やっぱりねー」
「俺の眼に狂いは無いと思うんだけどなぁ」
「うーん残念!」
「でもまた何処かで会えたら、そのときは・・ね!(笑)」
悠優「は、はあ・・」
池田「それじゃあ!」
シャっとカッコよく片手を肘から上に挙げて、呆気にとられる彼女を尻目に笑顔を残したまま彼はとっとと退散してしまう。
悠優「はあぁ・・あの方って・・」
「一体なにをしに来たんだろう?」
頭の上に?マークをいっぱい付けて呆然と立ち尽くす彼女の後ろから、先程まで一緒であったカメラマンさんが声を掛けてくれた。
カメラマン「どうしちゃったの? 悠優さん?」
「それにあのひとって、確か・・」
「・・そうそう! ○○プロの池田さんだ!・・」
彼、池田は意外と業界では有名人であった。
カメラマン「・・で? なんであの人と?・・」
悠優「えっと・・それがですね・・・」
彼女は池田との今迄の経緯を簡単に説明をする。
すると・・。
カメラマン「ええ~? ホントに~???」
「だって・・だって彼にスカウトされるって云う事は
スターへの道を約束された様なものなんだよ~!!」
悠優「え?・・あ、はあ?」
カメラマン「”え?・・あ、はあ?“じゃないって!!」
「何でそんなチャンスをスルーしちゃうの?!!」
悠優「う~ん・・だって」
「だってプロなんて私の柄じゃないし・・」
「池田さんの熱意は凄~く伝わっては来てるんですけど~・・」
カメラマン「はああぁぁ~???」
モデルの誰しもが憧れる○○プロダクションとの契約である。
カメラマンさんは彼女の浮世離れした感覚に只々戸惑うばかりである。
カメラマン「・・じゃ、じゃあね・・」
「・・さよなら???・・」
彼は上を向いて首を左右に振りながら、後ろ手を彼女に振ってさよならの合図をする。
悠優「あっ! ○○さ~ん! 危ないですよ~!」
「そこの柱が~!」
カメラマン「・・え? なに~? はしら~?・・」
彼はゴツンッと柱に頭をぶつけた後、ふらふらと出口まで歩いて行く。
悠優「どうしちゃったんだろう? ○○さんって?」
頭を柱に打ち付けた彼に言わせれば彼女こそ”どうしちゃったんだろう?“状態である。
だが今の彼女にはそんな彼の親心さえ到底理解し得なかった。
悠優「あの~お大事に~」
そして彼女の目指すべきところは只一点のみなのである。
愛する彼と、愛娘の居る場所へと。
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