宏之「・・悠望・・」
(..やっとママをみつけたよ..)
彼はソファーに座って直ぐ隣にいる娘の顔を見ながら感慨深げに想いを巡らせている。
娘の悠望の方はと云えば、パパから買って貰ったお菓子の箱を一頻り眺めて楽しんだ後、中身を取り出して美味しそうにその一粒を小さな口へと運んでいた。
宏之「・・悠優・・」
(随分、大人っぽくなったんだなぁ)
(……)
(本当に…綺麗になった)
彼は雑誌の表紙を眺めながら、そこに写っている一人の少女を深く確認して行く。
彼女は長いストレートな黒髪を微かに茶色く染めて、派手ではないが煌びやかなアクセサリーと恐らく流行りなのであろうファッションでその身を纏っている。
宏之(もうJKの3年生…だよな?)
(あれから既に5年が経った…)
(…そう…もう5年になるんだよ…)
あの山奥の建物で二人が初めて出逢ってから5年間と云う月日が流れていた。
宏之(悠優…確か君って)
(……)
(もう直ぐ誕生日だったよね)
彼女はあと数か月で満18歳となる。
一人の立派な成人と成り得る状況はもう目の前であった。
宏之(そうなれば…)
(その時になれば…)
(君とも大手を振って正々堂々と逢える事が出来る!)
彼は会の規則を真っ正直に順守して、彼女とは一切の連絡を取らなかった。
否、もし何らかの方法で連絡を取り合おうと思えば、予め彼女と示し合わせてメルアドの交換位は容易い事であったのだ。
だがしかし彼はそうしなかった。
そして彼女の気持ちも彼と同じであった。
宏之(待った甲斐があった)
(…それに…)
(君も今、そう想っているんだろ?)
(…悠優…)
彼の側には娘の乳母と云うお目付け役が常に目を光らせている。
当然彼女の方にも同じ役目の人物が居るはずだ。
しかしその目を盗んで迄、敢えて連絡を取ろうとしなかったのは、ここに居る娘の悠望の為でもあったのだ。
宏之(君は…君だけは…)
(僕らの様な複雑な関係とは
一切、関りが無いもんな…)
(ねっ!…悠望…)
彼が再び娘の方へと目を遣ると、その娘から先程の箱を差し出されてしまう。
悠望「パパにもこれあげるね」
(ニコッと可愛い笑顔で)
「すごくおいしいよ!」
宏之「悠望!!」
そんな娘の姿が堪らなく愛おしくなった彼は、いきなり幼い彼女を抱き締めてしまった。
悠望「パパ?!」
「・・ねえ?どうしたの?・・」
彼女は突然の彼の振る舞いに、暫くの間軽い戸惑いを隠せなかった。
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