宏之「はあぁ~・・やっと眠ってくれた~」
「今夜も手強かったな~(笑)」
時が過ぎ行くのは早い。
更に今ある状況も刻々と変化を遂げて行く。
そんな目まぐるしい日々を過ごす彼と消息不明の彼女が離れ離れになってから既に数年が経とうとしていた。
そして母親のぬくもりすら感じ得ぬままに、遠く引き離されてしまった娘と一緒に過ごす毎日が続いている。
彼は今、最近寝つきの宜しくない娘に絵本を読み聞かせながら床に就かせている。
宏之「そう云えば近頃、ママって言葉を聞かなくなった?」
「・・・・・」
「・・悠望・・」
「それ程までに思い詰める位・・
・・まだ見ぬママに会いたいのか?」
すやすやと寝入った愛娘の悠望(ゆうみ)を見ながら彼は独り言を言う。
宏之「俺だって・・」
「俺も逢いたいんだ!」
仕事で出掛けている昼間は乳母の女性に任せっきりの娘は手の掛からない大人しい女の子である。
過去に一度だけ深夜に熱が出て、救急車を呼ぼうかタクシーにするかを迷った位であり、至って健康な身体が彼を大いに助けてくれている。
そんな娘の隣で愛する彼女へと想いを馳せる彼も、いつの間にかうとうととして浅い眠りに就いていた。
そして翌朝。
休日の彼は娘を連れ立って近くのコンビニにまでお買い物である。
すると、いつもの様に横を通り過ぎるだけの雑誌コーナーにふと目が止まった。
宏之「ん?・・・」
「・・・・・?」
「こっ、これって?」
悠望「パパ~・・これがいい~」
お気に入りのキャラクター絵が入ったお菓子の箱を手に持ちながら、彼に向かってせがんでいる娘を尻目に彼は一冊のファッション雑誌に目が釘付けになる。
宏之「この表紙の娘は?!」
「・・この眼!・・」
「忘れたくても忘れられる筈も無い、あの涼やかな眼差し」
「それに・・それにあのシルバーのネックレス!」
「・・・・・」
「・・間違い無い・・」
「悠優だ!!」
離れ離れになる前に運良く渡す事の出来たお揃いのネックレス。
それはシルバーで出来たシンプルなデザインであり、細めなフォルムの粋な代物である。
彼はその雑誌を手に取ってパラパラとページをめくる。
すると女性インタビュアーに取材を受けている、まごうかたない彼女の姿がそこにあった。
宏之「悠望? お菓子、決まった?」
悠望「うん!」
待望のお菓子をしっかりと握り締めた娘を連れ立ってレジへと急ぐ彼。
その手には先程に見定めた一冊の雑誌があった。
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