澪「うんっ!・・うん、ぅんっ!」
「ねえ?正章くん?・・」
「貴方、最近メキメキ腕を上げているけれど」
「何か、有ったの?!!」
正章「べっ、別に?・・」
「何も無い、けど・・」
彼は康子との子作りと云う大事業を始めてからと云うもの、不思議な程に精神が澄み切って、本来の目的である水泳の鍛錬にも大きく身が入って居る。
澪「だって、ちょっと前迄、幾ら頑張っても出来なかった事が
簡単に出来る様になったのよ!」
「それって・・不思議過ぎる!」
正章「そっ、そうかな?・・」
「ははっ!(苦笑)・・」
澪(なに?・・この子?・・)
(な~んか怪しい!)
澪は彼の変貌に一抹の不安を抱えて居た。
何故なら彼と北川コーチの間には、変に余所余所しい空気が立ち込めているからであった。
康子「は~い!!・・終了~!!」
そして康子の晴れ晴れとした声が場内に響く。
最近の康子はファッションと云い、やけに明るい表情と云い、澪から見ても妙に色っぽく艶が有り、その女性としての魅力を倍増させている。
そんな思いを抱いている澪は、常に彼女の傍に居る彼の小さな変化さえ見逃す筈が無かった。
練習後の会議室で。
康子「今日で正章君の合宿はお終い!」
「これからは、大会に向けての調整に入るわよ!」
澪「はい!質問です!」
澪が真剣な面持ちで片手をスッと挙げる。
康子「何かしら?・・花村さん?」
澪「あの、彼のここ数日間の上達振りは
少し、奇妙に感じるのですが?」
「コーチの御見解は?」
澪は納得の行かない事が無性に嫌いであった。
康子「奇妙?・・」
「さあ?・・どうかしら?・・ねえ?」
「誰しもが伸び盛りの期間を
経験しているんじゃな~い?」
「貴女だって、そうでしょ?」
「ねえ?・・花村さん?」
澪は康子の勝ち誇った様なしたり顔が気に障ったのか、この後も執拗に彼女へと質問をぶつけて行く。
澪「そんな?!!」
「スポーツ選手が感覚で物事を言って居たら
スランプに成って仕舞った時に解決策が
分からなくなって仕舞います」
「それをどう思います?・・コーチは?」
C3のひよっこに精神論やらスポーツ理論やらを薀蓄(うんちく)されて、康子の方も少々感情的になる。
康子「あのね!こう見えても私は大学で
スポーツ生理学を修得しているのよ!!」
「気合と根性で押し切る時代の
申し子とは根本的に違うの!!」
「貴女の言っている事位、分かっているわよ!!」
澪「では何故彼の分析を拒むのですか?!!」
康子「はあぁ~?!!」
「私が科学的な分析を拒んでるって云うの?!!」
「なに?・・もしかして?」
「貴女!私が何も知らない筋肉バカとでも?!!」
澪「私はそんな事を言ってるんじゃありません!!」
康子「言うわね~?!!」
「それって、嫌味?!!」
澪「嫌味なのはコーチの方ですっ!!」
康子「なんですって~?!!(怒)」
澪「そちらこそ~!!(怒)」
二人の激しい論争は留まる処を知らなかった。
そんな惨状を見かねてか、彼がのこのこと間に割って入って来る。
正章「まあ、まぁ!」
「二人共仲良く行きましょうよ!」
「ねっ?!」
康子・澪「はああぁぁ~~??!!」
「貴方は黙ってなさいっ!!」
正章「はっ、はいぃ~!!」
彼は二人の猛女に瞬殺されて仕舞った。
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