雫と典史は準備を整えて、スタート台へと上がる。
コーチ「よ~し!お前たち」
「どちらが勝っても負けても
恨みっこ無し、だぞ~!!」
場内は彼女を応援する男子部員と彼を推す女子部員とで真っ二つに割れ、さながら決闘ショーまがいの様相を呈している。
「雫隊員~!!頑張れェ~!!」
「桑島のボケを叩きのめしてくれえぇぇ~~!!」
「桑島センパイ!!男の意地を見せて下さい!!
お願いしま~す!!」
かと思うと
「桑島センパ~イ!負けないで~!」
「桑島ク~ン!その子、生意気よ!!」
「絶対に勝ってね~!」
などと、最早男子と女子の代理戦争と化して来た。
コーチ「よ~し! 位置に就け~!」
コーチの掛け声を合図に場内が一気に静まり返る。
「パンッ!!」
号砲一発、二人は見事なスタートを決めて行く。
身体を思いっきりに伸ばして水中にザブンっと入り、頭と腕が水面に見え始めた頃には既に彼女は身体一つ分の差を付けていた。
彼女はその差を守ったまま、快調にペースを上げて行く。
それに引き換え彼の方はと云うと、ハンデの重みが余程大きいのか、全くペースが上がらない。
泳げば泳ぐ程、徐々に彼女から離されて仕舞う。
その差はターンをしても変わる事は無かった。
そして、そのままの差でゴールイン。
彼女は彼に圧倒的な差を付けたまま勝利をした。
雫「はあっ!はぁっ!!はぁっ!!・・・」
「・・・ふう! ふうぅ~!・・・」
「か、勝った?・・」
「わたし・・勝った、の?・・」
コーチ「勝者!!」
「相原選手~!!」
「パチ!パチ!パチ!~(大笑)」
雫「やっ、やった~!!」
「勝ったよ~!!」
典史「はあっ! はあっ! はあっ! はあぁぁ~・・・」
「・・・負け、た・・・」
彼はコースロープを掴んでうな垂れたまま、彼女の方を見る事が精一杯である。
彼は全力を出し切って負けた。
幾らハンデを付けられたとしても、その負けに悔いは無かった。
彼は彼女の総合的な戦略に負けたのである。
「桑島ァ~!!テメェ~!!」
「負けやがるとは・・団の面目丸潰れダァ~!!(怒)」
「でも雫チャンは良くやったね~(喜)」
「きゃあぁぁ~~!!何で~?!!」
「桑島センパ~イ!」
「イヤ~~!!(哀)」
怒号と歓喜の声、そして切り裂く様な悲鳴が飛び交う場内をよそに、二人は満足そうな笑みを浮かべている。
だが彼にはこの後、過酷な運命が待ち受けて居ようとは、彼自身全く想像も及ばなかったのであった。
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