典史「北川さん、いらしてたんですか?」
「ご無沙汰しています!」
彼は雫を引き連れて、北川たちの居る会議室へと表敬訪問をする。
北川「あら~!」
「桑島クン!」
「相変わらずのイイ男っぷりね!」
典史「そんな・・」
「えっと・・ところで正章の事なんですが・・」
彼は弟の正章について、彼女へ現在の状況を聞いて行く。
今、北川と正章は国際大会を戦う為に海外遠征を繰り返している。
そして帰国をする度に、このクラブとは別の近代的な設備が整った場所で練習を繰り返している。
北川「もう、バッチリよ!!」
「彼はまだまだ伸び代が有るわ!」
「でも・・後はもう、重箱の隅を
突く様な戦いなのだけれど、ね・・」
典史「そうなんですか・・」
「分かりました!」
典史は正章へ激励を込めて発破を掛けて行く。
典史「おい!まちゃ!!」
「しっかりやれよ!!」
正章「もうっ、兄さんったら・・」
「いい加減その呼び方、止めてくんない?!!」
正章は未だに続いている、兄の自分に対する子ども扱いを本当に嫌っていた。
北川「まあまあ・・兄弟の仲が良過ぎるのはその辺で、ねっ?」
典史「あっ!・・し、失礼しました!!」
彼は直立不動になって彼女の警告を受け容れる。
北川「処で・・相原さん?」
「貴女・・随分と実績を挙げてるらしいじゃない?」
「やっぱり、桑島コーチの腕が良いって事、かな?」
典史「いや~!!そんな事は無いと・・」
「あっ、ほらっ!」
「相原からも礼を言って!!」
二人は一瞬目を合わせた後に、雫から言葉を発して行く。
雫「いえ、そんな事はありません」
「私の今が有るのは、北川コーチからの
並々ならぬ指導の賜物だと考えております」
彼女の口から、そんな大人びた言葉が出て来て、北川と澪がびっくりする。
北川「はあ~!・・」
「お世辞まで成長してるわ!!」
(へえ~?・・何、この二人・・)
(・・妙に息が合っちゃって・・)
北川の洞察力と情報処理能力は卓越していた。
彼女は二人の関係を薄々気付き始めている。
澪(雫ったら!!・・)
(そんな言葉を使うなんて・・)
(初めて聞いた!!)
(・・怪しい・・)
(ってか・・もう既に最後までやっちゃってる!!)
澪は自分の事は棚に上げて、親友でありライバルでも有る雫の進歩を、只単純に悔しく思っていた。
北川「まあ、でも・・」
「それを云うなら花村さんもかなり成長してるわね!」
澪はいきなり話題を自らに振られた事で狼狽えて仕舞う。
澪「そ、そんな・・」
「私なんて、まだまだです」
北川「う~ん!まあ・・」
「そうかも、ね!」
「実際、正章とは性別の違いは有っても
短期間で必要以上に実力差が開いちゃったしね~」
澪は北川が口にした、自分の愛弟子の自慢と自らを貶める発言を聞いて、心穏やかでは居られなくなる。
澪「・・はっ、はいぃ~!!(怒)・・」
(えっ?なに?・・何なの?)
(・・幾ら何でもコーチからそこ迄言われる筋合いじゃないわ!!・・)
彼女のその一言には怨念が籠っていた。
典史「まっ、まあまあ、この話はこの辺で、と云う事で?(苦笑)」
そして、そんな二人の遣り取りから、ただならぬ気配を本能で感じた典史は
ワザとおどけた調子で、この話題をこの場から逸らして行く。
雫(のりふみさん?・・)
正章(コーチ?・・・澪、さん?)
狭い会議室では、五人五様の熾烈なマインドゲームが繰り広げられて行く。
北川は、迫り来る敵から正章を守る事だけを考えていた。
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