医師「”おめでた“ですね」
「お身体、大事になさってください」
康子「あっ、・・ありがとうございます!!」
「本当に、本当・・に!!」
彼女は母親への第一歩を踏み出した。
この事は彼、正章には折を見て話そうと思った。
そして感極まった彼女は、まだ大きく成っていないお腹を摩りながら、一粒二粒の涙を零している。
彼女は今、とても幸せであった。
そんな慌ただしい年の瀬は、あっという間に過ぎ去って行く。
小さな幸せを抱いたままの彼女は、念願のアメリカ修行へ向けて渡米の日を迎えていた。
空港では見送りに来た大勢の関係者と一人一人、丁寧な挨拶を繰り返して行く。
そしてそこにはクラブの教え子たちも含まれていた。
典史「コーチ!」
「お身体を大切にして下さい」
「帰国後の成果を楽しみにしています!」
康子「貴方もね!」
「それと相原さんの事、よろしくお願い、ね!」
雫「北川コーチ!」
「お土産、期待しています!」
康子「はあ?(笑)」
「ふふっ! 分かったわ!」
彼女は二人と握手を交わした後、澪と正章の方へと歩み寄る。
康子「色々と面倒を掛けたわね」
「本当にありがとう!」
澪「コーチ?・・あ、あの・・」
康子「これ!・・後で読んで、ね!」
「よろしく!」
康子は彼女に一通の手紙が入った封筒を手渡した。
内容は正章へのコーチングについてである。
そして手紙は正章の手にも渡される。
正章「コーチ?・・これって?・・」
康子「私からのラブレターよ!!(笑)」
「後で開いてみて!」
正章「はっ、は、い・・?」
彼女はそう言って彼に封筒を差し出した。
その中の手紙には彼への溢れる愛と彼女自らの葛藤、そしてこれからの道筋が書かれている。
康子「では皆さん!!」
「不肖ではありますが、北川康子!!
頑張って行ってまいります!」
彼女は手を振りながら何度も振り返って、皆に別れを告げて行く。
その後姿を見ながら典史、澪、雫、正章の全員で別れの手を振る。
雫「はあぁ~・・行っちゃった、ね!」
典史「うんっ!・・そうだね」
短い別れの感想を述べる二人に対して、澪と正章は只々黙って彼女を見送っている。
その姿は典史が帰宅の合図を掛けるまで、暫くそのままの姿で続いていた。
数か月後、澪と雫は晴れてJKとなった。
二人共同じ学校に合格して、毎日を忙しく過ごしている。
只、クラスは別々となって仕舞った。
「相原さ~ん!」
「げんき、してるぅ~?」
声を掛けて来たのは新クラスメイトの吉村美波(みなみ)。
シンクロナイズドスイミング・デュエットの選手である。
ここはスポーツ特待生制度を採用している学校であった。
美波「ねえねえ!!きいた~?!!」
「あの澄ました顔付きの・・・」
「・・えっと、誰だっけ?・・」
彼女が指差す方を見て雫がゆっくりと応える。
雫「三村さん?」
美波「そうそう!その三村がさぁ~」
三村とは女子バレーボールでアイドル顔負けの注目を集めている選手であった。
美波「あ~んなぺったんこの胸のくせに、今度グラビア撮影を・・」
雫「ぺったんこで悪かったわね~!!(怒)」
美波「あわわっ!!(汗)」
「相原さんのは”ぺったん“位かな?・・ははっ!」
雫は”ぺったんこ“と”ぺったん“の違いが分からなかった。
雫「それで?」
美波「それでって?」
彼女は既に自らの云わんとする事柄を忘れていた。
雫「はあぁぁ~!」
「この先が思いやられる!!」
天然の雫でさえ悩ませる、この超天然少女の行く末や如何に。
一先ず終了です。
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