実の母と育ての親に先立たれた、不憫なまゆ。
彼女のために僕がしてあげられることと言ったら、快適な生活を提供するくらいのことだった。
親戚の話し合いのあとも、まゆはまだしばらく母の家にいて、近所にすむ叔母が通いで食事や洗濯の世話をしてくれていた。
そこで僕は、まゆが僕のマンションに移ってくる日までに、部屋のカーテンと壁紙を少女らしいものに交換し、ベッド、クローゼットなどの家具も新しい物を買いそろえた。
引っ越しの日。
まゆは、新しい自分の部屋を見て
「 夢みたい…」
とつぶやいた。
兄は苦労人で仕事がなかなかうまく行かず、まゆと住んでいたのは安い木造アバートだったし、実家は広いが古い日本家屋で、まゆの部屋は畳敷きだった。
そんな彼女が、築浅の僕のマンションの一室を、喜んでくれたのは、僕にとっても幸せなことだった。
しかし、ふたりだけの生活が始まっても、まゆの無口と無愛想は相変わらず。僕が一生懸命話しかけても、「はい」「いいえ」「大丈夫です」
などと短く答えるだけ。
なんとかもう少し打ち解けられないものか…
そう思案していたある日、事件が起きた。
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