僕は、さやたんとこれっきり連絡が取れなくなるんじゃないかと、すごく不安になった。
さやたんは僕の彼女だけれど、そういえば、正確な住所も、携帯の番号すら知らない。
けど、僕はすぐに思い直した。
さやたんに限って、ずっと連絡をくれなくなるなんてあり得ない。さやたんはそんな子じゃない。きっと何か訳があるんだろう と。
彼女がすごく忙しいのかも知れないのに、しつこくしたら迷惑だろうと思い、ラインは朝晩1回ずつだけにした。
その日の予定、あったこと、面白かったこと など、他愛ない事を書いて送った。さやたんからは返事はなかったけれど。
名古屋でのアパートも決まり、引っ越しの準備をしていた時だった。
突然、携帯が鳴った。
見ると、ライン通話からだった。
『まさか!』
僕の脈は一気に3倍くらいまで跳ね上がった。
「もしもし?」
「ミー?」
「さやたん?ホントに?」
「ミー ごめんね。あたし、全然連絡しなくて 悲しかった?」
初めて聞くさやたんの声は、想像してたのより少し低く、落ち着いていたが、僕はすぐにその声に夢中になった。
「…,信じてたよ。きっと何か訳があるって。待ってたら、きっと連絡くれるって。」
「…ミーが名古屋に来てくれるって、嬉しかった。でも、急に心配になっちゃって。」
「なにが?」
「…本当の私を見て、ミーがガッカリしたらどうしようって…」
「そんなこと、あるわけないよ!」
「ミー、私、ネットとかじゃ、いいとこしか見せてないよ?ホントはズルいこと考えたり、陰口言ったり…」
「そういうのもみんな含めてさやたんが好きだ!」
さやたんのこと、ほんとはよく知らなかったくせに、今思うとずいぶん軽薄な事を言ったものだ。
「……ありがと。ねえ、こっちに来たらどこに住むの?」
僕は名古屋のアパートの住所を告げた。
「そこなら、家からそんなに離れてないよ。近くに大きなショッピングモールがあるから、こっちに来たらそこでデートしよ?」
「ほ、ホントに僕と会ってくれるの?」
「当たり前じゃん。私はミーの彼女だよ?」
僕は天にも昇る気分だった。
その後、僕たちはラインや通話で連絡を取り合い、初めて会う日のことを話し合った。
待ち合わせ場所、時間、その日の服装など。
前の日にはさやたんは、当日着てくるつもりの服を着て、写メを送ってくれた。すごく、すごくかわいかった。
僕の引っ越しの日。僕は荷ほどきもせずに、さやたんとの待ち合わせ場所に向かった。
ショッピングモールの真ん中の、噴水の前。入り口から近づいて行くと、遠目からでもさやたんが先に来て待ってるのが分かった。
時計を見たり、周りを見回したり、落ち着かない様子。
僕は速足で彼女に近づいたが、終わりの方はほとんど小走りになっていた。
「さやたん!」
「ミー?」
ところが僕は、感激のあまり、そのままの勢いで彼女を抱き締めてしまった。
やってしまってから、しまった!と思った。
初対面なのに…
けど、さやたんは、さすがに一瞬固まってたけど、すぐに
「じょうねつてき…」
とつぶやくと、僕の背中に手を回して抱き返してくれた。
喜びが、お腹の底から沸き上がってきた。
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