(脱線してます。読みたくなければ読まなくて構いません)
朝8時を過ぎた頃、俺は張り直したタープの下でディレクターズチェアに座りコーヒーを飲んでいた。
俺達の他にあったテント3つのうち2つは既に片付けられ、側に置いていたバイクに積まれていた。
それぞれに朝の時間を楽しみ、2台のバイクは30分も経たないうちに出発していった。
里菜と里穂はまだテントから出てこない。
その代わりというべきか、例のカップルが炊事場で少し悪戦苦闘しているようだ。
おそらく何かスモークしようとしているようだが、うまくいくのか行かないのか。
うまく行こうが、失敗しようが俺には関係ないそんな風に思っていた。
それから30分ほど経っただろうか、寝ぼけ眼を擦りながら里穂がテントから出てきて、
「・・・お腹すいた~・・・」
おはようと言うと思ったが、第一声がお腹すいた~という声に口に入れたコーヒーを吹き出しそうになりながら、
「顔洗っていで、その間にスクランブルエッグ作っておいてやるから。」
里穂は俺の言葉に反応するように、手にタオルと歯磨きセットを持って小走りで例のカップルが居る、炊事場に。
バーベキューコンロの上に使い慣れたフライパンを乗せ、手早くスクランブルエッグを作っていると、
里菜が着替えを済ましてテントから出てきて、
「おはよう」
と少し恥ずかしそうに声をかけてきた。
「・・・大丈夫か?」
「うん・・・大丈夫・・・」
ほんの2時間前、あれだけ乱れた姿だった里菜。
今は落ち着き、いつもの穏やかな里菜の姿に戻っていた。
里菜と里穂が洗面と歯磨きを終え、テントに戻ってきた。
その間にスクランブルエッグを作り、ソーセージを焼きそれぞれの皿に取り分け、
1時間ほど前に管理事務所で貰った焼きたての、バターロールをテーブルに置く。
3人分と言ったはずが・・・15~6個のバターロール・・・。
まぁ、女の子とはいえ2人共食べ盛りだし、すぐに無くなるだろう。
3人揃って、いつもより遅めの朝食。
比較的おしとやかに食す里菜、よほど腹が減っていたのかガツつく様に食べる里穂。
こんな所にも、性格の違いが出ている。
食後の片付けを終え、再びゆったりとした時間を過ごしていく。
里菜は俺の側を離れようとせず、何冊か持って来ていた小説を読み、里穂は落ち着きなくテントの回りを走り回ったり、
川の方に行っては石を川に向かって投げたり・・・。
昼近くになった頃里穂が・・・
「おじさん川の水、濁ってきたよ」
俺の側に来て、不思議そうに言ってきた。
すぐに思ったのは、上流にあるダムの放流かもしくは上流の方で強い雨が降っているか。
何かあってからでは遅い、そう思い管理事務所に話を聞こうとした時、事務所で流されていたラジオから大雨警報が発令されたことを知り、
すぐにバンガローの空きを確認し、テントからバンガローに変える事にした。
2人の元に戻りながら、例のカップルに大雨警報が出ていることを教えたが、「ふ~ん」位の反応ですまされた。
里菜と里穂にそれぞれ自分の荷物をまとめさせ、その間にテント回りの片付けをしていた。
2人の荷物と自分の荷物を借りたバンガローに運び入れ、残ったテントの片付けをしていると遠くの方で雷の音が聞こえ始めた。
雷の音が聞こえ始めた途端、他のテント客がバンガローやロッジの申し込みに走ったようだが、後ろ姿を見る限り空きがない様で、仕方なくテントを片付け帰宅準備を始めるといった感じ。
最後の荷物をバンガローに運んでいる途中で、大きな雷の音とともにバケツをひっくり返した様な、土砂降りの雨が降りだした。
あっという間に頭から、足の先まで文字通りずぶ濡れになってしまった。
バンガローの中には幸い温水も出るシャワーがある。
2人にシャワーを浴び、着替えるように言ったあと窓から外を見る・・・。
いくつかのテントの回りで走り回るようにしながら片付けをしている人影が見えた。
何気なしに、さっきまでいたテントサイトの方を見ると・・・例のカップルのテントがそのまましかも、川の水が増水しテントに近づいているのが見えた。
・・・本当はもう関わりたくない・・・だがあのままだとテントだけでなく、もしかすると・・・そんな思いに囚われ、里菜と里穂にバンガローから出ないように言い聞かせ、
自分は雨具を着て、管理事務所に走り事務所の職員と例のカップルのテントに走った。
例のカップルは、テントの中にいた・・・しかも半裸で抱き合うようにして・・・。
危険が迫っていることを伝え急いで服を着させ、テントを固定していたペグを抜きテントを畳まないまま、少し高くなっている炊事場の側に移動させた。
後のことは事務所の人間に任せ、自分はバンガローに戻り備え付けのラジオのスイッチを入れた。
ノイズが酷く聞きにくいラジオからは、明日の朝まで雨が続き低い土地は冠水に注意する様にと・・・そんな放送が聞こえてきた。
バンガローに戻り30分ほどした頃、雨脚が少し弱くなっていた。
・・・ドンドンドン・・・・
バンガローのドアが少し強く叩かれ、ドアを開けると管理事務所の初老の男が手に大きなビニール袋を持ち立っていた・
「お車、このバンガローの前に入れてもいいですよ、それからこれ、この急な雨でいくつかのグループが余った食材置いていったのでおすそ分けです。」
そう言って渡された大きなビニール袋の中には、肉や野菜、菓子類や菓子パン、飲料水やジュース類、缶入りのアルコール類が無造作に入っていた。
受け取ったビニール袋を側に来ていた里穂に渡すと、すぐに中身を見たあと引きずるようにして奥に持って行った。
「そういえば、あのカップルと言うか2人どうしましたか?」
初老の男は苦笑いを浮かべながら、
「ああ、男性がテントやその他のもの置いていくから処分してくれと強引に・・・女性の方はかなり不機嫌で渋々と言った感じで着いて行きましたけど」
「・・・そうですか」
「今持ってきたもの、ほとんどがあの2人が置いていったものですよ。何やらスモークやるんだとか言って色々買い込んでは来たものの・・・」
「・・・初心者にありがちなことですね・・・それにこの天気ですし・・・」
そう言うと、その初老の男性はニコリを笑い、
「まぁそういうことです。ではお気をつけて。」
そう言って、ドアの前を離れていった。
管理人でもあるその初老の男性に言われたように、自分の車をバンガローの前に持ってきて止め、ドアのロックを確認し中に入ると、
2人は早速菓子や菓子パンに手を着けていた。
「・・・そうか、そういえば昼飯食べてなかったもんな・・・」
時間はもう間もなく3時になろうとしていた。
バンガローの中で、菓子や菓子パンをつまみ、2人はジュースや飲料水をのみ、俺はアルコールを飲みながらダラダラとした時間を過ごしていた。
夕方18時を過ぎた頃、管理人からもらった肉を焼き簡単な夕食を済ませ、再びダラダラとした時間を過ごしていた。
20時を過ぎた頃2人は湯船に湯を張り、立て続けに風呂に入ったあとそれぞれ今夜の寝場所を決め、寝具を整えるとその場所でゴロゴロしながら眠くなるのを待っていたようだ。
俺はと言うと、持ち込んでいたポータブルラジオでラジオを聞いていた。
バンガローに備え付けのラジオより入りが良く、天気情報や警戒情報を聞くにはもってこいだった。
20時半を過ぎた頃、2人の親でもある姉に管理事務所の中にある公衆電話から電話をかけ心配ないと伝えバンガローに戻ると、
里菜が雨の止んだウッドデッキの椅子に座り、空をみあげていた。
「雲の流れ早いよ。」
里菜の言葉に釣られ、空を見上げる。
確かに雲の流れが早く、雲の切れ間から星空が見え隠れしている。
「・・・おじさん、今夜はおじさんと一緒に寝ていい?」
空を見上げたまま、里菜が聞いてくる。
「別にいいよ、里菜がそうしたいなら」
空を見上げていてた視線を、里菜に向けて言うと、嬉しそうに頷いたあと、
「・・・じゃお風呂早く入ってきて、少し汗臭いよおじさん」
里菜にそう言われ自分で、脇の辺りの匂いを嗅いでみると・・・確かに少し汗臭かった。
里菜に急かされそうになりながら、風呂に入り体の隅々までよく洗ったあと、真まで温まるほどまでは行かなかったが、
いつもより長めに風呂に浸かっていた。
(次書く時には戻るはずです)
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