別れの朝。
親族達は、次々に各地へと帰って行きます。
僕は萌が帰るまではなんとなく残ろうと考えていたので、親族達を見送っていました。
別れを惜しみ、泣く子供達と、笑う親戚達。
微笑ましいなぁ。と見ている僕の横には、やっぱり萌が居ました。
萌は何やら神妙な面持ちで僕を見上げると、
「おにいちゃんも帰るの?」
と聞いてきます。
「うん、萌が帰る時にお兄ちゃんも帰るよ」
と答えると、手を握る手がギュッと強くなるのでした。
親戚はあらかた帰り、いよいよ萌のお母さんも帰ります、と仏壇に線香をあげていた。
別れの時、彼女は泣かなかった。
強い子だな、と。なんかこっちが泣きそうになっていると、トトトッと寄ってきて
「おにいちゃん」
「ん?」
何やら手招きをしています。
不思議に思いながらしゃがみ込むと、チュッと唇に軽くキスされました。
僕の親も、萌の両親も見ている前でやられたので、少々ドキッとしました。
小声で(だいすき)と言うと、小動物の様な少女は、体を目一杯使って手を振りながら、帰って行きました。
あれからもう十数年。
あの子には会っていません。
後になって知った事ですが、萌は遠く海を越えた地方に嫁いだ親戚の娘だったようです。
僕はあれ以来、もう絶対に幼い子に手を出さないと誓っています。
僕の中に鮮烈に残っている出来事でしたが、今となっては、萌本人には忘れていて欲しいと願うばかりです。
彼女の人生を歪めてしまった可能性だって十分にあるからです。
全て忘れて、あの頃のまま。
素直で天真爛漫に育っていて欲しい。
身勝手なのは承知です。
ただ、あの夏の日。
僕は、小さな女の子に、恋をしていました。
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