それから、僕たちの付き合いは、長く続いた。
美咲はエリス女学院を卒業し、同じ系列のミッション系女子高に進んだが、そこもお嬢様ばかりで他校との男子との接触はなかったし、僕の方ももちろん浮気なんかしない。
成長するごとに、清楚な雰囲気を残したまま、どんどん美しくなってゆく美咲に、僕はますます夢中になった。
そんな彼女が高校2年になった春、転機が訪れた。
ずっと海外で、経営する会社の支店の立ち上げの陣頭指揮を取っていた彼女の父親が、帰国したのだ。今後しばらくは国内で仕事するらしい。
僕は最初、この知らせを聞いて喜んだ。
僕たちがどれほどデートを重ねても、夜彼女が、広い屋敷でひとりで過ごすという状況は変わらなかった。それが、これからはいつも父親と一緒なのだ。美咲ちゃんも嬉しそうだった。
ところが、父親の帰国から日が経つにつれ、美咲ちゃんはどんどん不安定になって行った。
ふたりで会っていても、じっと考え込んだり、そうかと思うと急にはしゃいでおしゃべりになったり。
僕が理由を聞くと、美咲ちゃんは、「パパに嘘をつかなきゃいけないのが辛い」と答えた。
父親が帰国して以来、僕たちは夜のデートはしていなかった。会えるのは土日だけ。それも、美咲ちゃんが家を出る時に父親が在宅していると「図書館で勉強してくる」とか「お友達と映画を観るから」などと嘘の言い訳をしなければならない。
美咲ちゃんの父親は、束縛するタイプではないようで、彼女の言うことを疑ったり詮索したりはなかったようだが、それでも罪悪感でストレスを感じてしまうのが、美咲という少女なのだ。
そしてある日とうとう
「お願い!パパに会って、ふたりの交際を認めてもらって!」
と言い出した。
これにはさすがの僕も、かなりビビった。
その時点で3年も付き合っていたのだから、親公認の仲になることは良いことだが、なにせ彼女はまだ17才。こちらは社会人だ。会ったとたんに一喝されて、追い返されるかもしれない。
それから懸念がもう一つ。世間一般では、17才の少女の縁談など、冗談にしかならないが、セレブの世界ではそうでもないらしい。
美咲ちゃんの学校でも、親同士が決めた許婚者とか、政略結婚とかで、高校在学中に相手が決まってしまう子もかなりいるということだった。
そんな家の子の親に挨拶に行き、もし気に入られたら、そこまま婿殿のように取り込まれてしまうのではないか?
僕が動揺を美咲ちゃんに悟られないようにしながら
「わかった。そうだね、そうしよう」
「でも僕みたいなのがいきなり会っても、お父さんを怒らせるだけだから、ちょっと作戦を考えてみるよ」
と言うと、彼女は
「がんばって…」
とつぶやくような声で言った。
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