そもそも、なぜゆうちゃんは、東京からこの村に来ることになったのか?お寺の跡取りになるためだ。
では、現在の住職にはなぜ、跡取りにする子供がいないのか?
ある時私はふと気になって、母親に理由を聞いてみた。
「ああ、あのお寺のお坊さんは、結婚しちゃいけないんだよ。なんか戒律とかいうので、そう決まってるんだって。」
私の気も知らないで、母はこともなげにそう答えた。
『ということは、ゆうちゃんも?いくら好きになっても、結婚はできない…』
今考えれば、まだ小3なのにそんな将来のことを悲観してもしょうがないのだが、その時の私にはショックだった。
それから、私の彼への態度は少しづつ素っ気なくなって行った。
ちょうどその頃からゆうの方も、上下の学年の悪ガキたちと遊ぶことが増え、時には学校で禁止されている危険な遊びをしたり、みんなして女子をからかったりするようになった。
村長の娘で、大人たちから優等生と見られていた私は、それを見て注意しなければならない。
するとゆうも、他の男子も当然「うるせえな!舞には関係ねぇだろ!」などと言い返してくる。
そんなこともあり、私と彼の関係はどんどん険悪になって行った。
それでもまだ、私のゆうへの恋心は醒めなかった。
何しろ周りの男子が、彼以外はイモばかりだったし、わずか5歳で母親から引き離され、ド田舎の寺で厳格な住職と二人暮し、その上女子と付き合うことも禁じられている、彼の気の毒な境遇を思うと、とても他の男に気を移す気になれなかったのだ。
なのに、毎日顔を合わせているのに、関係はギクシャクしたまま。その頃の私は、常にイライラしていたと思う。
そんな状態のまま、ふたりは中学生になった。
2年生になった夏、とんでもない噂が私の耳に飛び込んできた。
[お寺の跡取りのゆうが、境内の蔵に村の娘の誰だかを連れ込んで、悪さをしている]というのだ。
最初私はそれを信じなかった。だが、いつまで経ってもその噂は、消えてなくならない。それどころか、だんだん話が具体的になってきて、私も信じない訳には行かなくなった。
私は更に苛立った。
『ゆうちゃんが戒律を守れなくなった気持ちは分かるけど、なんで私じゃないのよ!』
だがひとつだけ確信できたのは、彼がその悪さの相手と、恋愛関係にある訳ではない、ということだった。
6歳の時から毎日顔を合わせているのだ。ゆうが誰かに恋をしていたり、彼女できたりしたなら、いくら何でも分かるはず。彼がしているのは、噂どおり、『悪さ』とか『イタズラ』とかいう類のことなのだろう。
だとすれば、いつかは私も、順番が回ってくるのではないか?
おかしな話だが、私はその時を心待ちにするようになっていた。
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