1ヶ月後、私達は村を出て、ゆうちゃんのお母さんのアパートに引っ越した。
私は東京の普通高校に転校し、ゆうちゃんは定時制に通いながら、近くの工場で働き始めた。もちろん私も、校則で許される範囲でバイトをして、家計を助けた。
そしてゆうちゃんが定時制を卒業した年、私たちは、お母さんのアパートを出て同棲をはじめた。そして昨年の春、入籍して夫婦になった。
でも、同棲を始めるときも、ゆうちゃんが『寺』を投稿したあとも、好きだとか彼女とか、改めて言ってもらったことはない。
入籍する時でさえ、ある日仕事から帰ってきた彼が、黙ってポケットから婚姻届を取り出し
「お袋がさ、そろそろこれ、出しといた方がいいんじゃないかって言うんだ」
と言っただけだった。
私は「そうだね」とだけ答え、黙ってそれにサインした。
この先も多分、言葉にしてもらえることはないだろう。もう彼女じゃなくて妻だし。
とうとう言ってもらえなかったことは、やはり女としては、不満だ。
けれど、少なくとも私は、6歳のときから脇目も振らず、ずっとゆうちゃんを想って来た。
そしてそのおかげで、そうだったからこそ、ふたりともあの因習の村から抜け出すことができたのだ。
だからやっぱり、私にとってゆうちゃんは、あの6歳の日に期待したとおり、白馬の王子様だったのだと。今はそう思っています。
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