私達が高2だったある日、ずっと体調が悪かった住職が、ついに入院した。もう長くないという話だった。
この事態を受けて、村の主だった人達で、住職が亡くなったあとのお寺のことが話し合われることになった。
実はその話し合いの前の晩、私は父である村長の部屋に呼ばれた。
父は私を前に、困ったような、とこか寂しそうな表情で座った。
「お前、寺の跡取りのゆうと、付き合ってるのか?」
父の問いかけに、私はただ、黙って頷いた。
父は少し声を荒げて
「何でよりによってあいつなんだ!他のやつならまだしも…」
と問い詰めてきた。
なんでゆうちゃんなんだろう?
私はその問いかけに、答えようとした。
ゆうちゃんが、東京から来た、特別な男の子だから?
他の村の男子より、きれいな顔をしてるから?
5才で母親と引き離された、可愛そうな子だから?
そのどれもが当たっているようで、違っているようで…
結局私は答えられず、黙って俯いていることしかできなかった。
「あいつは、村を追い出されるぞ。お前は、どうする?」
「そんなら、私もゆうちゃんと一緒に…」
すると父の顔は見る見る赤くなり、怒鳴られるかと覚悟していたのだが…
父は、ふうっと深いため息をついたあと、低い声で
「本気なんだな?」
と聞いた。
私は黙って、大きく頷いた。
「…まあ、何にしても明日の話次第だ。どんなことになるか… お前も、覚悟だけはしとけよ。」
それだけ言って、父は部屋を出ていった。
翌日の夜、父が集会所へ出かけてから帰ってくるまで、私は話し合いの結果が気になって居ても立ってもいられなかった。
父が帰ってきて玄関の戸が開く音がすると、私はたまらず玄関まで走って行き、
「どうなった?」と聞いた。
父は
「このバカ娘が!」
と怒鳴り、私の頬を叩いた。
父に手を上げられたのは、この時が最初で最後だった。
「ゆうは、東京の母親の所へ返すことになった。当面、向こうでの生活に困らんように、村から手当が出る。お前は…ついていくんだな?」
「はい。ごめんなさい…」
私が答えると父は
「そんなら、今からすぐに寺に行って、あいつに連れてってくれるか頼んでみろ。俺は…そこまでは話せなかった。」
私は頷くと、すぐに家を飛び出した。
足早にお寺に向かいながら、私は必死に考えた。ゆうちゃんになんと言えばいいだろう?
普通に、
「東京へ帰ることになったんだって?私も連れてって!離れたくない…」
と言ったらどうか?
受け入れてもらえればいいが、もしゆうちゃんに
「何言ってるんだ?俺たちはそんな関係じゃないだろ?」
なんて言われたら、この10年の彼への想いが一瞬で打ち砕かれるだけでなく、私のプライドもズタズタになってしまう。
そんなことにはならない、と信じたかったが、絶対の自信はなかった。
結局私は、ゆうちゃんの前でわざと怒って見せることしかできなかった。
お寺でゆうちゃんの顔を見るなり
「まったく!なんでこんなことになるのよ!」と怒鳴った。
「どうした?」
「お、お父さんが、お前みたいな恥知らずな娘は村に置いとけないから、追い出すって。ゆうちゃんに、と、東京へ連れてってもらえって…」 そう言って涙をボロボロ落とした見せた。
「俺と一緒に東京へ行く…嫌なのか?」
ゆうちゃんがそう言ってくれた時、私は安心して、その場にへたり込みそうになった。
『嫌なのか?』と聞いてくれるということは、ゆうちゃんはそれでもいいと思ってくれてるということだから。
「嫌じゃない!連れてって!」
と、泣きながらすがりつこうかとも思った。
だが、わずか17才で、親も故郷も捨てて出てゆくとなれば、人生がかかっている。
彼がどれ程の覚悟でそう言っているのか。それだけはどうしても確かめない訳には行かなかった。
「あ、あんたはどうなのよ?こんなの連れて帰って、お母さんに怒られない?」
「俺は別に構わねえ。お前はこの村一番のべっぴんだし、村の宝だからな。持っていっていいというなら、ありがてぇ話だ」
ゆうちゃんのこの言い方。私はこの村の男が、女を商品のように扱うのが大嫌いだった。でもゆうちゃんに言われると、不思議とそれほど腹が立たなかった。
「なによ!人を物みたいに… 私、しつこいよ?一度村を出たら、もう帰るとこなくなっちゃうし、後で帰れなんて言われても…」
「そんなこと言わねぇよ…」
ここまで私が詰め寄っても、『お前が好きだから、一瞬に連れて行きたい』とは言ってくれない彼。じれったさもあって、私の追求はさらにエスカレートした。
「お、お嫁さんにしてって、言うかもかもよ?私キズモノだもん。もう他にもらってくれる人もないし…」
「ああ。お前がそうしたいなら、それでも構わねえ」
この返事には、さすがに驚いた。私が絶句していると彼は
「俺は今まで、そういうことをまともに考えたことがねえ。お前とこういう関係になる直前まで、坊主になって一生独身でいるもんだと思ってたからな」
と補足してくれた。
ということは、彼が将来結婚するとか、家族を持つとか、イメージするチャンスを奪っていたのは私、ということになる。
思春期の男の子が女の子との将来をイメージする時は、かならず相手の子への性欲とセットになるものらしい。その性欲を、あいまいな関係の私が、ずっと満たしてあげていたのだから。
実際に東京で一緒に暮らし始めれば、次第にそういうこともイメージするようになるのかも知れない。
それでも私はその夜、その場しのぎでもいいので、ハッキリ言葉にして言ってほしかった。
「そんなら…ゆうちゃんもそれでいいなら… 言ってくれてもいいんじゃない?」
「何をだよ?」
「だから!…」
「やだよ。そんなのいまさら照れくさい …」
もう、この返事で十分だった。
いまさら、ということは、『そんなのいまさら言葉にしなくても、わかってるだろ?』という意味。私のはそう解釈した。
それでも、すぐには引っ込みがつかなくなって
いた私は、
「何でよ?いいじゃない!そうなんでしょ?」
と問い詰めた。するとゆうちゃんは返事の代わりに、私の肩を抱き寄せ、顔を覗き込むようにしてキスしてくれた。
そしてそのまま、私が座っていた場所の後ろに敷いてあったお布団の上に、押し倒された。
3年間付き合って、はじめてのキス。
はじめての、お布団の上でのセックス。
ゆうちゃんはブラウスのボタンを全部外すと、背中に手を回してブラのホックを外し、ゆっくりと私の乳首を嘗め始めた。
いつもよりじっくり、時間をかけて、私の全身を愛撫して気持ちよくさせてくれた。
これが、強引に愛の言葉をねだった私への、彼の精一杯の返事だったのだろう。
私は、それまでになく満たされた気分の中で、3年ぶりの射精を子宮の奥で受け止めた。
※元投稿はこちら >>