怪文書、というのだろうか。
その日、ある公立中学校の職員室は混乱の極みにあった。
学校という組織における特徴のひとつに、事無かれ主義、場合によっては隠蔽があることは周知の事実である。
可能な限り、発生した不祥事を無かった事、もしくは不問に付し、処罰される人数を減らし、大勢に影響を及ぼさない方向に導くアレた。
だが、今回の件についてはレベルが違った。
匿名の通告者からの告発文は、極めて端的な文章しか、いや、言葉足らずというべきであろうか。
いずれにせよ、告発文は様々な想像が成立し得る内容であった。
十三歳、一年生の女子生徒が、とある教師により、事もあろうに校内で凌辱されたというのだ。
文書に同梱された画像を見る限り、当の教師に申し開きの出来る余地はない。
それ程に凄惨な画像が、職員室では回覧されていた。
衣服を剥ぎ取られた生徒は、目を覆うような性暴力の犠牲に遭い、辱しめを受けていた。
あまつさえ、同封された画像の中には後日談としか表現のしようがない情報が含まれている。
公共施設で半裸を晒し顔を歪める少女。
河原と思しき屋外で後背位で貫かれる少女。
その画像には巧妙な編集と処理が施されている為、少女が誰なのか特定することは困難であった。
だが困難と不可能は違う。
何だか、あの子に似ている・・・。
ひょっとして、あの子じゃないのか?
そういうレベルであった。
ともあれカナエは今現在、生徒指導室に呼び出され、二名の女性教諭と向かい合って座り、遠回しに事情聴取を受けている。
誰からとは明言されないが、不愉快な接触を受けた覚えはないか?
学校内外を問わず、不本意な交際を迫られたことはないか?
呼び出したにも関わらず、教師達は本題に触れることを互いに譲り合う。
眼前に座る少女は、キョトンとした顔つきをしたまま、何故、呼び出されたのか分からないという風情であった。
婉曲表現の極致と表現するしかない程、二人の女性は言葉を選びながら、遠回しな質問を投げかける。
まるで理解出来ていない、そんな表情を浮かべた少女は、徐々に事のあらましを把握しつつあった。
いずれにせよ、少女が性被害に遭ったことを匂わせるような情報を示すわけにはいかない、直感的に悟った彼女は、知らぬ存ぜぬの態で終始するのみ。
何の情報も得られぬまま、少女を解放した二人の教師は戸惑っていた。
怪文書の主が被害者としている生徒は、本当に先刻まで面談していた少女なのか?
怪文書に添付されていた画像の被害者であるのならば、十三歳の少女があそこまで隠し通せるものだろうか?
「でも・・。」
「何ですか?」
「あの子、変わったわね・・・。」
二人の意見は一致したが、面談の成果はこれといって得られず、加害者と目される教師のみが処分を受けることになった。
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