ドアを開け
「ただいま」
と声を掛ける。
スリッパの音をたてながら、まりあが
「お疲れさんやったなぁ」
と顔を出す。
続いて騒々しい音をたてながら
「お帰りー!!」
と3人の子供達が出てきて、カバンと上着を奪い合いながら奥へ戻っていく。
そんな子供達を優しい笑みで見ていた まりあの肩に手を置くと、まりあは振り向き 顔を傾け口づけを交わす。
そして毎日、顔の横に手をかざし指輪を見せ
「似おとるかぁ?」
と聞いてきては、俺の返事を聞いて、ニィーと笑う。
まりあが戻った奥の部屋からは
「お前ら何しとんやぁぁ!早よ片付けんかぁ!お尻ぶたれたいんかぁ!」
と子供達を叱る声が聞こえてくる。
楽しく騒々しい時間は、あっという間に過ぎ去っていった。
上の息子と娘は結婚して、下の息子も独り暮しを始め、また俺とまりあの二人の生活になった。
体を求め合う事は無くなったが、手を繋ぎ散歩をして、お互い しわ枯れた体を洗い合い、布団に入り口づけてから眠る。
平凡な毎日になったが、今までのどんな時よりも満たされ、まりあを愛しまりあから愛され、1日では足りないくらいに愛を語り合った。
昔、医者が
「そう長くはない…」
と言ったのに、十分過ぎるくらいに長い。
本当にバクが俺の悪い病気を食ってくれたのかも知れない。もしかしたら、まりあが夢の中でメザシと一緒に食ってくれたのかも知れない。
どちらにせよ、そんな事は忘れていた。
しかし、悪い病気は食われたのではなく、身を潜めていただけだったのだろうか……
病室で、まりあと交わる前に
「うちに、移ったらどおするんやぁ」
と まりあは言った。
バクのぬいぐるみを持って俺の腹を突つき続けてくれた時、バクでは無く まりあが食っていたのだろうか……
夏の初めに、突然 まりあが倒れ、救急車で運ばれた。
真面目な顔した医者が
「身内の方ですか?大事な話があります」
と言ってきた。
大事な話なら、まりあと二人で聞くと言ってやった。
真面目な顔で真面目な話を医者はしていた。
途中で俺は医者の首根っこを掴み
「ふざけるな!」
と言い暴れた。
まりあは ただ
「そうかぁ」
と 一言だけ言いベッドに横になった。
何故 俺より先に まりあが逝かねばならない………
※元投稿はこちら >>