窓から陽射しが射し込んでいた。
ベッドの横で、まりあは自分の手を何かに見立て、一人で遊んでいる。
俺の体調はすこぶる良くなってきた。なのに医者が真面目な顔で言ってくる。
「身内の方とご連絡は取れますか?」
そんなものは居ないし、俺が話を聞くと答えてやった。
俺とまりあは真面目な顔で話す医者の真面目な話を聞いた。
たいした話ではない。笑ってしまう話だ…
俺の肝臓には末期な癌が居座り、処置はするが…長くは無いかも知れないらしい……
たいした話ではない…
まりあの前で医者の首根っこを掴み 「ふざけるな!」と自分を見失ったり、泣き崩れたりして哀れな姿を見せれる訳がない。
たいした話ではない。
まりあは医者の話が終わると、隣で一言だけ言った。
「そうかぁ」
ベッドで本を読んでいると まりあが言ってきた。
「オッチャン暇やぁ、早よ どっか遊びに連れて行ってくれんかぁ?」
「あぁ、そうだな。早く退院して、まりあの行きたい所に行こう。どこがいい?」
「そうやなぁ……」
しばらく考えて
「うち動物園行ってアイアイ見たいわぁ。歌に出てくる お猿さんのアイアイやぁ」
そう言うと、すぐに
「あっ!」
と声をあげ
「うち、ええ事 思いついたわぁ!ちょっと出掛けてくるわぁ!」
とニィーと笑い、病室を出て行き、夕方になっても、夜になっても戻らず、結局次の日の夕方に帰ってきた。
ベッドの横に座るとすぐに袋から ぬいぐるみを取りだし、俺の腹を突つきだした。
「パクパクパク…
モグモグモグ…
パクパクパク…
モグモグモグ…」
そう言いながら、ぬいぐるみで腹を突つき続ける。
あまり見た事のない形をした ぬいぐるみだった。
「…バクか?」
「そうやぁ!バクやぁ!こいつがオッチャンの悪い病気を食いよるわぁ」
パクパクパク…
モグモグモグ…
パクパクパク…
モグモグモグ…
まりあはずっとバクで腹を突つき続けてくれた。
パクパクパク…
モグモグモグ…
パクパクパク…
モグモグモグ…
パクパクパク…
モグモグモグ…
パクパクパク…
モグモグモグ…
パクパク…パク…
モグモグ…モグ…
マリア 《生》終
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