雪が降っている。
暖かい雪が。
昼間、町をさ迷い、ビールを飲み、煙草を吸い、つまずいて転び、膝を打ちつけ、それでも歩き、また転び、立ち上がるのも嫌になって寝転がった。
お節介な者どもが、手を出し助け起こそうとしてくるが、その手を払いのけ寝転がっていたが、犬が顔を舐めてきやがるので立ち上がり、蹴飛ばして また歩いた。
ビールを買ってから人通りのない道を歩き、飲んだ。また咳き込み血を吐いた。近くに空き地があったから、小枝を2本折り空き地の隅に座り、小枝を地面に差した。
「もう、いい。ここで、くたばろう…これが俺の墓で、これが、まりあ…お前の墓だ」
夜になり、雪が更に強くなった。
「少し…眠ろう」
すぐに夢を見た。
あの女の子の顔がハッキリと映り、涙が出てきた。なのに思い出せない。
強い風が俺を起こし、まりあの小枝の墓が風に飛ばされ、転がって行く。
「今、助けてやるぞ」
立ち上がり、小枝を追う。
すぐに咳き込み、血を吐いた。今までよりも大量の血を……
その血を見て、俺は恐くなってきた。
「まだ…ダメだ…まりあを…まりあを助けてやらないと…」
風に転がる小枝を追ったが、足がもつれて転び 膝を打ち、動けなくなってしまった。小枝に手を伸ばすが、風にコロコロと転がり遠ざかって行く。
「まりあ助けてやるぞ。誰か…誰か手を貸してくれ!」
お節介な者達もアル中も痩せた男もチンケな男も誰も居らず、誰も通らない。
「誰か!助けてくれ!俺は嫌だ!まだ嫌だ!助けてくれー!!」
風がやみ、雪が真っ直ぐ降り注ぐ。
「助けてくれー!!」
天を仰ぎ叫ぶが、ただ雪が真上から落ちてくるだけだった。
「俺は…死にたくない」
空から落ちて来る雪が大きな固まりとなり、それはやがて 人の手の形となり俺の前に差し伸べられた。
「このお節介は…マリア様か?…雪の化身か?」
その手を掴むと、とても暖かく、とても懐かしい肌の感触だった。
何度もその手を握り、何度も抱いた事のある 肌の暖かさだった。
ユラユラと顔を上げると、ソレが囁いた。
「オッチャン大丈夫かぁ?病院行かなアカンでぇ。うちが病院連れてったるわぁ」
信じられなかった…
声にならなかった…
ま……
………まりあ…
まりあが現れ、俺に手を差し伸べてくれた。
あの日の約束を果たしに来てくれた。
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